□不定期(2018-2021)
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【女心と秋の空】


 これまでの粗筋!
 デジタルワールドに迷い込み、元の世界へ帰るための手掛かりを求めて旅を続けるヒナタ。光のヒューマンスピリットに続き、ビーストスピリットを手に入れるものの、荒れ狂うビーストの力に悪戦苦闘。
 マリーやインプモンのサポートでどうにか暴走は抑え込めるようになったが、消耗する体力と摩耗する精神にぶっちゃけ、そろそろ嫌気が差してきたのであった。

「ねえ、スピリットってデジモンは使えないの?」

 スピリットを狙ってやってきた敵を返り討ちにし、一息ついたところでふと思ったことを問う。インプモンはふむと唸って少しだけ眉をひそめ、マリーは目を丸くした。

「使えるとは思うが……手放そうとしてるのか?」
「ええ!? ヒナ、やめちゃうの!?」
「やめていいならすぐにでもやめるけど……」

 光の闘士になったのは単なる成り行き、必要に迫られて仕方なくのことだ。他に適任者がいるなら喜んで手放そう。ヴォルフモンの悲しそうな顔が一瞬脳裏をよぎった気もしたが、たぶん気の所為だろう。

「試しにインプモンやってみない?」
「魔王に光のスピリットかよ」
「光と闇の魔王……なんかすごそう!」

 なんてわいわいとやっていた、その時だった。先の戦闘で崩れた建物の瓦礫の下で、ぎらりと光る何かが視界の端に見えたのは。
 確信があったわけではない。けれど、先程までデジモンになっていたからか、思考より先に本能が警鐘を鳴らし、私は、気付けば飛び出していた。

「マリー!」
「っ! なっ……!」

 瓦礫から飛び出す影、閃く凶刃。先の戦いの生き残りだ。瓦礫の下で死んだフリだなんて、古典的な手に……!

「ヒナっ……このぉ!」

 咄嗟にガルムモンに進化し、我が身を盾にマリーを庇う。と同時にワンテンポ遅れて進化したカルマーラモンの触手と、インプモンの放った炎が直撃し、敵は粒子となって消滅する。

「くそ、馬鹿みてえな油断したな。ヒナタは無事か?」
「あ……えと……わかんない」
「あ?」

 曖昧な言葉にインプモンが振り向けば、そこにはカルマーラモンに抱えられた見慣れぬデジモン。ヒナタの姿はどこにもない。いいや、

「それ、まさかヒナタか?」
「そう、みたい……」

 人の姿に戻り、マリーは困惑気味に返す。
 マリーより少し小柄な、水色の毛並みの獣人型デジモン。ヴォルフモンに似ているが、ヴォルフモンでもガルムモンでもない、見たことのない姿だった。

「なにがどうしたらそうなる?」
「わかんない。あたしもこんなのはじめて……」

 マリーたちは大きなダメージを受けると進化が解除される。恐らくは素体となった人間を守るため、スピリットかデジヴァイスに備わった安全装置なのだろう。進化しきる前に攻撃を受けたことで安全装置が誤作動を起こして中途半端な進化をしてしまったのか。
 マリーですら知らない以上、どれだけ頭を捻ろうが推測の域を出ないことだが。

「とにかくここを離れるぞ、こんな状態で敵に会いたかねえ」
「うん。……あ」

 と、ちょうどそんな時、水色の獣人デジモンが目を覚ます。獣人は目をぱちくりとさせ、辺りをきょろきょろと見回す。

「ヒナ、大丈夫?」
「身体はどうだ、元に戻れるか?」

 矢継ぎ早に問われ、獣人はぽかんとする。まるで状況を理解できていないというように。その様子にマリーとインプモンは顔を見合わせる。

「おい、ヒナタ?」

 と、インプモンが獣人に顔を近付けた、その途端。

「……っ!」
「ほえ?」

 獣人はびくりと震え、跳ねるように物陰へと隠れてしまう。怯えて逃げるように。

「……おいおい、まさか俺たちのことわかんねえのか? マジでどうなってんだよこれ」
「でもなんかワンちゃんみたいでかわいいかも」
「言ってる場合か」

 夢の中でヴォルフモンに会った、なんて話をしていたな。スピリットにも自我らしきものはあるらしいが、今はそれが中途半端に表出しているのか。なら、ヒナタの意識は一体……。

「ほぉら、ヒナー。怖くないよー。おいでおいでー」
「うー……」

 なんて、インプモンの思考を余所にマリーが優しく微笑みかけると獣人はおずおずと物陰から顔を出す。まるで野良犬だった。

「なんだこれ……。おい、ヒナタ?」
「……っ! ふー!」

 そして俺には懐かない。
 ああ、もう、何がなんだかさっぱりだ。
 誰か、誰かどうにかしてくれ……!

 それから、紆余曲折を経てヒナタがどうにかこうにか元に戻るのは、しばらく後のこと。
 その間の出来事をマリーとインプモンはあまり多く語ろうとせず、そんな二人の態度にヒナタは「二度とスピリットなんて使うものか」とゴネたりもするのだが――それはまた、別のお話である。


-終-
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