-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その一 四天王決戦編
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シーンU:猿との決闘(1/10)

 二人は逃げ切れたろうか。意識の端で思考しながら、迫り来る鋭い爪の一撃をかわす。身体をのけ反らせ、一歩を後退る。今度は避けきった。そう思えば不意に、重い衝撃が身体を突き抜ける。左の爪を囮に繰り出された右拳が、態勢を崩したその瞬間を狙いすまして叩き込まれる。途端に身体は後方へ吹き飛ぶ。
 腹を押さえながらどうにか地に足つけて踏ん張って、黄色い熊は小さく唸る。

 二人が工場を出てほんの10分足らず。黄色と黒の熊こと、もんざえモンとワルもんざえモンの対決は、後者の圧倒的優位であった。

「おやおや、考え事かね? 随分と余裕があるじゃあないか」

 なんて嘲笑するワルもんざえモンには、疲労の色などまるで見て取れない。
 ち、と舌を打つ。
 何なら四天王もまとめて引き受けてやるぐらいの気概で挑んだものだったが、絶対無理だと悟ったのは僅か一合目。ドッグモンにもみすみすハナたちの後を追わせてしまった。戦闘経験値の差を嫌という程に思い知る。踏んだ場数の桁が違う。同種の完全体ゆえ、大差はないと思っていた基礎スペックですら大きく劣っている。膂力も、それを操る技術や戦術でも負け、正直に言えば勝ちの目は欠片も見えない。ぶっちゃけ泣きたい。泣こうかな。

「我が野望を挫いてくれるのではなかったかな?」

 それ言ったのオイラじゃねんだけど。という言葉は飲み込むことにした。今はまだ敵わない、とはいえ、今はまだ逃げるわけにもいかない。先に行った二人はアジトの出口を知らないのだ。脱出にはまだ時間がかかるだろう。てゆーかオイラも知らないけど。工場見付けてこいつぁ大手柄だぜとか思ったら他のことはすっかり忘れちまった。くそ、なんて雑な仕事だ! この憤りは誰にぶつければいい! オイラか! オイラだ! こら!
 ぎゅむんと顔を歪め、疲労と弱気を追い出すように息を吐く。そろそろハナの生き霊とかがモノローグに突っ込みに来そうだし、気合いを入れ直してもちっと踏ん張ってみるとしようか。

「待ってろ。今からべっこべこに挫いてやっから」
「ほう、それは楽しみだ」

 余裕たっぷり、皮肉げにワルもんざえモンは笑う。自分が負けることなど夢にも思ってはいないのだろう。そして事実、その通りになるだろう。やれやれまったく、とんだ貧乏クジを引いちまったもんだぜ……!
 
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