-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その一 四天王決戦編
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シーンY:二つの決着(1/8)

 ウィザーモンは思案する。
 身体能力では成長期にも劣るはずの人間の少女が暴走する完全体を飛び蹴りと平手打ちで鎮圧したことも勿論すごく気になるが、それより今は、この現状をいかにして打破するかということ。
 暴走による自滅は食い止められたものの、ワルもんざえモンとの実力差は依然として埋まるはずもなく、刻限は着実に近付いている。どこまで信用できるかは定かでないが、あのツワーモンと名乗るデジモンがトループモンを引き受けてくれている今、厄介なのは姿を隠したニセアグモン博士のほうだ。常時十数個の黒い歯車を操り、隙あらば洗脳しようと我々を狙っている。唯一もんざえモンにだけはその矛先を向けていないようだが、それは横槍を入れるなというボスからの命令なのか、あるいは完全体を支配するほどの性能をそもそも持ち合わせてはいないだけなのか。
 いずれにせよ、成熟期であればほぼ完全に支配下に置けることは既に証明されている。あの物量では迎撃するこちらのスタミナがそう長く持たない。トループモンをあらかた殲滅したツワーモンが加勢に来てくれるのならニセアグモン博士を直接叩きにもいけるだろうが、それがいつになるかはわからないし、第一、まずもってツワーモンなどという不確定要素を主軸に戦略を組み立てるわけにはいかない。

 決着が近いのは現状ではニセドリモゲモンとポキュパむ……モンか。邪魔さえなければ両者の実力はほぼ拮抗している。ツワーモンが現れるまでの間、多勢に無勢を余儀なくされたニセドリモゲモンが体力的に不利ではあるものの、あれだけの接戦な上にどちらも格闘戦を主体とした戦闘スタイルだ。ダメージも疲労も互いに限界まで蓄積されているはず。恐らく気力も眼前の敵を倒すまでが精一杯。それ以上の戦闘継続はもはやほぼ不可能と見ていいだろう。

「“スピニングショット”!」

 風の刃をもって襲い来る歯車を撃ち落とし、今一度戦場を見渡す。役目を果たした勇者ももんざえモンの元を離れ、歯車の迎撃に加わっている。勇者の役目が露払いでいいのかはひとまず置いておくとして、二人掛かりであればまだしばらくは持ち堪えられるだろう。問題は、その先だ。

 いまだ数手が足りない。なにより決定打となりうる一手がない。
 もどかしい。自分の頭の不出来がなによりも。師匠であればどうするだろう。いや、考えるまでもなく「逃げてしまえ」か。あの人が私の身を案じることなど万に一つもあるまいが、少なくとも何の利益にもならない戦いなどする弟子を称賛しはしないだろう。
 そもそもの話として「ゲートは後でいいからその人間の傍に付いていろ」とは二人と一度別れた後に師から届いた追加指令だったのだが。好奇心がローブを着て浮いているようなあの人のことだ、興味の対象は今や遠い異世界からやって来た世にも珍しい人間の少女へと移ったのだろう。であれば少しくらい手を貸してもらいたいものだが、期待するだけ無駄なことはわかりきっている。
 まったくあの人には困ったものだ。一つに興味を持てばそれ以外のすべてを疎かにする。以前も確か魔王と選ばれし子ど――

 そんなところまで考えて、ふと、頭の奥底に細い細い光の筋が差した気がした。どうにも想定外の出来事に弱いせいか、思考が次第に脱線してしまったことが幸いしたらしい。光明とは、いつも思い掛けぬところにあるものだ。

「ハナ君!」

 名を呼べば少女は振り返る。確かめなければならない。点と点とが線となり、線と線とが面へとなりうるのか。そこに、思い浮かべた通りのこの絵を描き出せるのか。

「何? どうしたの?」

 問いながら少女は歯車を叩き落とし、ひょひょいと瓦礫を跳び越えやって来る。どうして今まで気付かなかったのか。いや、疑問はあった。不思議には思っていた。思っていたのになぜと自分を叱り飛ばしてやりたいが、一先ずそれは後にしよう。

「確認したいことがある!」
「え? 今ぁ!?」
「そうだ今だ! ハナ君、デジヴァイスはまだ持っているかい?」
「デジ……あ、えと、ポケットに入ってるけど」

 ぽんと腰の辺りを叩いて少女は眉をひそめる。訝しむのはもっとも。だが説明している時間はない。そもそも、今もなお続く歯車の猛攻をどうにかしない限りは、説明以前の話でしかない。
 僅かばかりの光明は見えた。のに、そこへ至る道がまだ見えない。
 どこか、なにか、もう一手、後一手が……!

「はぐはぐ」

 そうして光明は、暗がりの中から思わぬ姿で顔を見せるのだ。
 
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