-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その一 四天王決戦編
33ページ/47ページ

シーンX:真実の姿は(2/8)

「手応え、ありだ……!」

 衝撃に吹き飛んで転げ回り、大岩に突っ込んで減り込んでようやく止まる。すぐには立ち上がれそうもなかった。露骨すぎるほどの苦しげな顔と呻きに、ワルもんざえモンが余裕の笑みを浮かべる。状況は大の付くピンチと言わざるをえない。そして台詞がモノローグと被ったことにはすまぬと言わざるをえない。結構余裕あんなオイラ。
 胸を摩りながらふらふらと立ち上がる。まだいける。こともなくはない。だがもう2、3発も喰らえば心が折れる。メンタル的にはもはや限界が近い。フィジカル的には多分10発くらいいけなくもないが、残念ながらヌメモン族はそこまでブレイブなハートを持ち合わせていない。全生命力の三割も削られたら普通に挫けるわ! むしろ今なお挫けていないことを褒めていただきたい!

 やり場のない憤りを抱えて力無くファイティングポーズを取る。
 薄々感づいてはいたが、どうやらオイラは早まってしまったようだ。何がというならヌメモンの分際で調子乗って勇者のお供なんてしちゃったことだ。ヌメモンの分際とは何事だ。それもこれもすべてはあのじじいが「勇者様をジャングルの外までご案内して差し上げなさい」とか言い出すからだ。あれさえなければ今頃は村で悠々と……ん? ジャングルの外? は!? そういえばオイラの仕事単なる道案内だった!? そんな馬鹿な! 何してんだオイラ!?
 そんな内心のあれやこれやもしかし、赤の他デジであるワルもんざえモンには知ったことではないし知る由さえもない。立ち上がりはしたものの、俯いてまるで覇気のない眼前の敵に、手を緩めてやる理由などなかった。

「さあ、どうした!? よもや怖じ気付いたわけではあるまいな!」

 更にもう一発。今度は左手の獣爪を振りかざし、黄色いもこもこボディを引き裂かんと猛進する。ゆらりと、黄色いもこもここともんざえモンが顔を上げた。その目に点るのは、かつてないほどに淀んだ光だったという。

「うぅぅるせえぇぇぇ!!」
「ぬぅ、ぐおぉ!?」

 どおん、どんどん、と。巨大な銅鑼を叩き鳴らすような轟音は、ただ拳でぶん殴っただけとは思えないほどに重く激しく響いて唸る。初撃はやや上方からえぐり込むように打ち下ろす右ストレート。次いですかさず左のジャブを繰り出して、流れるような動きで返す右拳のボディブローが炸裂する。飢えたケダモノの如きその形相にはおよそ似つかわしくないコンビネーションであった。
 蒸気にも似た真白い吐息を零し、黄色い野獣は双眸にどす黒い炎を燃やす。なんかいろいろあった末に何かが切れたらしい。その事情には、勇者だけがなんとなく察しがついていた。

「ちぃ……まだそんな力が。まったく、そのしぶとさだけは驚嘆に値するね」

 うるせえ! としか返すことができない、そんな精神状態だった。内に漲るデジソウルが茹だってたぎる。心なしか視界が赤らんできた。なんだか無性に叫びたかった。ようし、叫んじゃお!

「ふぉ、ふっ、ふぉほおぁぁぁぁ!!」

 とか、ついでに胸をどんこどんこと叩き鳴らせばなんだか心は高揚してくる。叫べば叫ぶだけ気が晴れていくよう。

「ふぉーふぉーふぉっひゃあぁーひゃっひゃっひゃあぁっ!」

 なんか楽しくなってきたあ! なんだか何でもできそうだ! やあってやらぁ! ゴー! オイラ! あひゃひゃ!?

「ぬう……!?」

 突然奇声を上げたと思えば途端に様子が変わる。デジモンとしての闘争本能が剥き出しになったかのように、眼光がぎらりと妖しく輝いた。そんなもんざえモンに、ワルもんざえモンの顔にも僅かな緊張の色が差す。脈動する電脳核のパルスが共鳴し、自身の本能までもが疼くよう。
 熊と熊とが互いに口角を上げ、咆哮とともに地を蹴ったのはほぼ同時だった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ