-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その一 四天王決戦編
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シーンW:決戦の狼煙(1/6)

 爆音とともに土砂が柱のように高く高く舞い上がる。もうもうと立ち込める砂埃の中、あたしたちは地上へと踊り出る。次第に開けていく視界。そこに見えたのは、草木の一つもない岩肌の大地だった。

「ここは……」

 振り返ればあちらこちらが崩落した石造りの建造物と、遠く樹海らしきものが見えた。周囲にトループモンたちの姿はない。どうやらアジトの外に出たようだが、それにしても手薄過ぎる。アジトの外に見張りの一人も立てないなんてどう考えても不自然だ。屋内からは銃声のようなものも時折聞こえてくるが、一体何がどうなっているのだろうか。

「ねえ男爵、ヌヌは……」

 やっぱりドリルが煩くてよく聞こえてなかったんじゃないのと、パチモン特攻の精度をあからさまに疑う顔でそう声をかけ――かけて、はたと空を仰ぐ。不意に頭上から響いた鈍い音。日を遮る黒い影。見上げれば真上から、何かが降ってくる。ひゅ、と息を飲み、慌ててその場を飛び退く。一瞬の後に今の今まであたしたちのいた場所に落ちたのは、熊だった。

「ぶへぇっ!」
「ヌ、ヌヌ!?」

 天から舞い降りた、いや舞い落ちた黄色い熊に声を上げる。熊は鳴咽のような声を漏らしながら身を起こし、頭を振って振り返る。そうして、あたしを見るなりそんな馬鹿なとばかりに布地の切れ目でしかないはずの目を丸くする。

「え……ハナぁ!? なんで!?」

 という疑問は成る程、あたしたちが逃げる為の時間を稼いでいたつもりの熊にとってはもっともだろう。あたしが同じ立場ならぶん殴っていたところである。でもまあ、いいから。

「遅いから迎えに来てあげたのよ。大丈夫、ハグルモンたちは逃がしたから」
「む、迎えにって……ハナ、そこまでオイラのことを心配して……!」
「あ、ううん。なんかノリで」
「ノリで!?」
「ねえ、それよりあいつは? 戦ってたんでしょ?」

 おかしな顔をする熊を余所に辺りを窺う。ああ、と少しを置いて熊は声を上げる。だが、既にその必要はなかった。
 
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