-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
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シーンY:金色の勇者(2/4)

 
「とにかくありがたく頂戴するのよ。さあ」
「え? あれ? オイラが持つ感じ?」
「何言ってんのよ。空いてんでしょ、中?」
「ええ!? ちょ、ちょっと待って? オイラ金塊積めて最終決戦に臨むの!?」

 と言われてはさすがにどうかとも思った。思ったが、いいから積め給え。金は腐食しないから大丈夫だ!

「うだうだ言ってないで、ほら、あーん」
「ちょおぉ!? よりによって口かまぐぇっ!?」

 煩い熊のお口に一本二本と延べ棒を詰め込んでいく。貯金箱みたいだな。実際お部屋に置いたら家族会議が開かれそうだが。
 そんなどうでもいいことを考えながら三本四本と押し込む。魔術師がとても何か言いたそうな顔をしていた。先程健太君に言われた通り日を改めて受け取ればいいだけなことには五本目で気付いた。そして余計な重しのせいで負けたら本末転倒なことには今気付いた。

 ふふ、成る程。認めよう。あたしは物欲に負けておりました。ごめんよ。
 さてどうしたものかと、迷いながら五本目を出し入れする。にゅぽんにゅぽんという嫌な音がちょっと癖になってきた。そんな時だった。

「ヌ、ヌヌ君!?」

 魔術師が驚いた風に声を上げる。一度眉をひそめ、熊を見る。あたしの目の前では、一目で判る異変が起きていた。

 端的に言うなら、ビームが出ていた。どこからというなら熊の目からである。そして熊の全身が小刻みに震えていた。何が起きているかは勿論わからない。しかし原因が何かというならあたし以外には思い当たらない。

「え、ええと……ヌヌ?」
「おぉ……おおぉ……おおおぉぉぉおお!?」

 天に向けて目からビームを照射しながら咆哮する。関節もくそもない身を捩らせてぶるぶると震える。ぎゃああぁぁ!? なんかごめん!

「な、なになに!? ねえ!? なんなの!?」
「い、いや、私にも……だがこれは、まさか進――!?」

 魔術師が何かを言いかけたその瞬間、熊の目から放たれる閃光が強く太く輝きを増す。そうして、一呼吸の間を置いて、

「あふんっ!」

 変な声を上げて熊が前屈みになる。その背中が、ぼこりと隆起する。

「にぃゆぅぅ〜〜……っ!」

 膝を折って手をついて、俯いたまま大きい方を気張るような声を出す。あらやだはしたない。時折びくんびくんと痙攣する様は、よく分からないがとりあえず不愉快だった。

「ふっ!」

 と、肺の空気を一息に吐き出すような気色悪い声とともに、熊の身体がぶるるるるっと一際大きく震える。途端、ぶりゅりゅんっ、と、黄金に輝くそれがお生まれになる。
 言い方があれだったので一応言っておくと、うんちではない。翼である。何を言っているか分からないとは思うが、翼である。熊の背中の二つのコブが弾け、布を突き破って現れたのは、黄金に輝く美しすぎる翼であった。

 地に手をついたまま、はあはあと荒く息を吐く。そんな熊の背中で、生まれたばかりの金翼が燭台の灯を照り返しきらきらと煌めく。ぷるんぷるんのてっかてかである。プリンみたいでちょっと美味しそうだったが、さすがにあれにかぶりつくほど堕ちたくはない。

「……ええと」

 誰もが言葉を失う中、沈黙に耐え兼ねて最初に声を上げたのは他でもない、あたしである。熊の顔を覗き込み、翼を見て、もう一度覗き込む。

「なにそれ」

 問えば熊はゆっくりと顔を上げる。おもむろに首を回し、自らの背に生えた翼を見る。そうして、あたしを見る。

「わかんない」

 もはや誰にも何も、解らなかった。
 
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