-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
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シーンY:金色の勇者(1/4)

 
 ぶおんぶおんと素振りをする。馬鹿でかい割りに全然持てた骨こん棒は、見た目に反して意外と軽かった。いや、あたしが怪力だとかそういう話ではなくてね。ホントにね、軽いのよ。
 表面はかっちかちの硬質。質感は金属そのもの。試しに岩をぶっ叩いてみたりもしたが掠り傷の一つも付かない程。にも拘らずその重量はゴブリンのこん棒とさして変わらない程度。いやいや、中ボスとはいえボスはボスか。さすがにいいものを持っているな。「また鈍器かよ」という落胆からともすれば立ち直れてしまえそうなスペックである。乙女としてはそのまま膝を折っておくべきところかもしれないが、殺らねば殺られるのだから仕方が無い。嗚呼、世界観が憎い。ヒロインをやらせろ。

「救世主様、ご出立でございますか?」

 性根の腐りきった神に怒りを募らせていると、不意に村人その一から声をかけられる。酷い呼称だが名前を聞いていないのだからしょうがない。見た目は半人半馬なケンタウロスに似ているからとりあえずは健太君と呼んでおこう。慌てて駆けてきた風な健太君に、あたしは首を傾げて問い返す。

「そのつもりだけど、何かあった?」
「あ、いえ、実は先程皆と救世主様にお礼をしたいと話しておりまして……お忙しいようでしたら日を改めさせていただきますが」
「ほほう、ちなみにどんな?」

 ぐぐいと身を乗り出して、目を輝かせる。折角のご厚意である。無下にするわけにはいくまい。決してあたしが物欲の権化とかそういうことではない。
 何か言いたげな熊にも構わず、健太君に案内されて他の村人たちが待つ場所へと向かう。時間にして5分足らず。坑道に入ってすぐ、製錬所のような部屋で村人たちに迎えられる。

「お礼と言いましても今はこんな状態でして、このようなものしかご用意できないのですが……」

 伏し目がちに健太君が言うと、回りの村人たちが石造りの机にごとんごとんとそれを積んでいく。ひーふーみーの……全部で十本か。ピラミッドの如くそびえ、燭台の灯に照らされてぎんぎらぎんに輝くそれは――金の延べ棒であった。

「せめてもの感謝の気持ちでございます」
「わあ露骨。いただきます」

 あたしは即答する。熊が目を丸くした。

「いただくの!?」
「やーね、さすがに食べないわよ。食べ物に変えるの」
「結果一緒! 後で食い物貰えばよくね!?」
「はあ、分かってないわね」

 やれやれだぜ。アメリカンスタイルに肩をすくめて溜息を吐く。まったくこの熊は。それじゃあ救世主の威光が通じるこの近辺でしかお食事ができないではないか。お金があれば「救世主です!」「は?」なんて不毛な会話をする必要もなく各地の美食を好きに堪能できる。お金があれば何でもできるのだ。
 てゆーか帰る当てもないから救世主の仕事終わったらあたしただの穀潰しだし。
 
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