-花と緑の-
□第五話 『花と縫包の乱 前編』
13ページ/23ページ
シーンW:終幕の先へ(2/4)
「え? 連絡なかったのこれのせいなの?」
「ああ、デジソウルの濃度が桁違いだ。体外に漏れたデジソウルが無意識のうちにファイヤーウォールとなって私の魔術を阻んでいたのだろう」
成る程。ぼんやりとだがとりあえず熊が悪いことだけは分かった。
「それより、ハナ君。急いで報せたいことがあってね」
「うん? あ、もしかして帰る方法分かったの?」
期待を込めて問えば、しかし魔術師は申し訳なさげに首を振る。これで帰れたら綺麗なエンディングだったのに。まあいいや。もう少しこの世界の美食を堪能するのも悪くない。なんて考えながら今にも溢れそうなよだれをどうにか堪える。
「すまない、ハナ君。ゲートの調査は中断せざるを得なくなった。今は一刻を争う」
心は一足フライングしてもうパーティ気分。だから、そんな魔術師の言葉には反応が一拍も二拍も遅れる。眉間に深く深くしわを刻んだ険しい顔で、魔術師は歯列を鳴らす。
「彼らの狙いが分かったんだ。放っておけばとんでもないことになる。事態は、極めて深刻だ」
だって、思いもしないもの。盗賊の首領を倒し、今度こそすべてが終わったはずだったのに。まさか――
「え? いやいやちょっと待って、狙いもなにも、ねえ?」
首を傾げて振り返るのはモヒカンの山。その中から除くオーガ三兄弟を見て、熊に視線をやる。
「おう、ボスならそこでノビてるぞ?」
「そうそ。ほらあれ、緑の奴と、赤いのと青いの」
「中々酷い呼び名だな」
「だって一回聞いたきりだし、あんまりドラマもなかったもん」
なんて交互に言ったあたしたちに、魔術師は三兄弟を一瞥してから、また首を振る。そうではないのだと、思い違えているのだと、その顔が語る。
夢にも思わなかった。夢を見る暇はなかったがそれはともかく夢にも思わなかった。まさか、これがエンディングではないだなんて。まさか、そこに転がるオーガたちが――
「残念だが彼らは兵隊に過ぎない。黒幕は、他にいるんだ……!」
魔術師の言葉にあたしたちは、ただただ目を丸くする。阿呆の子のように口をぽかんと開けたまま、問い返すこともできない。兵隊。黒幕。頭の中で言葉を反芻し、熊ともどもに頓狂な声を上げる。
そう、この戦いは、この冒険は――まだ終わってなどいなかったのだ。