-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
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シーンW:終幕の先へ(2/4)

 
「え? 連絡なかったのこれのせいなの?」
「ああ、デジソウルの濃度が桁違いだ。体外に漏れたデジソウルが無意識のうちにファイヤーウォールとなって私の魔術を阻んでいたのだろう」

 成る程。ぼんやりとだがとりあえず熊が悪いことだけは分かった。

「それより、ハナ君。急いで報せたいことがあってね」
「うん? あ、もしかして帰る方法分かったの?」

 期待を込めて問えば、しかし魔術師は申し訳なさげに首を振る。これで帰れたら綺麗なエンディングだったのに。まあいいや。もう少しこの世界の美食を堪能するのも悪くない。なんて考えながら今にも溢れそうなよだれをどうにか堪える。

「すまない、ハナ君。ゲートの調査は中断せざるを得なくなった。今は一刻を争う」

 心は一足フライングしてもうパーティ気分。だから、そんな魔術師の言葉には反応が一拍も二拍も遅れる。眉間に深く深くしわを刻んだ険しい顔で、魔術師は歯列を鳴らす。

「彼らの狙いが分かったんだ。放っておけばとんでもないことになる。事態は、極めて深刻だ」

 だって、思いもしないもの。盗賊の首領を倒し、今度こそすべてが終わったはずだったのに。まさか――

「え? いやいやちょっと待って、狙いもなにも、ねえ?」

 首を傾げて振り返るのはモヒカンの山。その中から除くオーガ三兄弟を見て、熊に視線をやる。

「おう、ボスならそこでノビてるぞ?」
「そうそ。ほらあれ、緑の奴と、赤いのと青いの」
「中々酷い呼び名だな」
「だって一回聞いたきりだし、あんまりドラマもなかったもん」

 なんて交互に言ったあたしたちに、魔術師は三兄弟を一瞥してから、また首を振る。そうではないのだと、思い違えているのだと、その顔が語る。
 夢にも思わなかった。夢を見る暇はなかったがそれはともかく夢にも思わなかった。まさか、これがエンディングではないだなんて。まさか、そこに転がるオーガたちが――

「残念だが彼らは兵隊に過ぎない。黒幕は、他にいるんだ……!」

 魔術師の言葉にあたしたちは、ただただ目を丸くする。阿呆の子のように口をぽかんと開けたまま、問い返すこともできない。兵隊。黒幕。頭の中で言葉を反芻し、熊ともどもに頓狂な声を上げる。
 そう、この戦いは、この冒険は――まだ終わってなどいなかったのだ。
 
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