-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
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シーンW:終幕の先へ(1/4)

 
「どうもありがとうございました、救世主様!」
「いやいや、なんのなんの」

 深々と頭を下げる村人たちに照れ笑いをしながらひらひらと手を振る。盗賊団が壊滅したことで解放された、付近の村々からさらわれてきた村人たちである。彼らと一緒にオーガたちをふん縛った後、改めてお礼を言われる。完とか言ったけどまだイベントあった。
 首領であるオーガ三兄弟が倒れ、残るゴブリンたちは正に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。方々にとんずらこいた雑魚どもを一々追うのはさすがにめんどくさ……じゃなくて、あたしたちだけでは手が足りないので断念した。とはいえ、もう何もできはしないだろう。そこそこのトラウマも植え付けておいたことだし。悪さしたらまた熊が来ちゃうゾ!
 なんてことを考えていると、当の熊はす巻きにされたゴブリンをひょいと投げ捨て、ぱんぱんと手を払う。積み上げられたゴブリンの山から呻き声が聞こえた。モヒカンがゴミのようだ。熊か悪魔かわかんないな。

「さあて、後片付けもこんなとこか。そんじゃあとっとと帰って祝勝会といこうぜ!」

 さすがのあたしも今のゴブリンたちには同情せざるを得なかった。得なかったが。

「さんせー! ねえねえ、こん中にすんごい料理上手い人いるんでしょ?」

 祝勝会と言われては意識がそっちに全部行かざるを得なかった。やむを得まい。きらきらと星が浮かぶような純粋過ぎる目で、ウネ子ちゃんが言っていた村一番の料理人とやらを探す。村人たちはとても戸惑っていたが構うものか。美味しいは正義である。

「え、えっと、それでしたらあちらの……おや?」

 この子かな、それともこっちかな。なんて楽しそうにキョロキョロしていると、見兼ねた村人その一があたしの後ろを指差し何かを言いかけて――ふと、その動作を中途で止める。空を見上げて訝しげな顔をする。釣られて視線を向ける。上へ上へと顔ごと上げて、その影を見る。ばさばさと、風にはためく外套。片手はとんがり帽子を押さえながら、もう片方の手には杖。逆光を背に舞い降りるそのシルエットには、見覚えがあった。

「ハ、ハナ君! よかった、ようやく追い付いた!」

 三人は定員オーバーな例の空を飛ぶ魔術だろう。風をまとって静かに降り立ち、藍色の魔術師・ウィザーモンはあたしを見付けて安堵の表情を浮かべる。欲を言えば昨日いてほしかったな。

「おお、なんだウィザーモン。重役出勤だな。もう片付いちまったぞ」

 おっす、とでも言わんばかりにフランクに片手を挙げる見知らぬ熊に、魔術師は少しだけ眉をひそめてから、はっとする。相変わらず理解の早い子だ。手間が省けて助かるな。

「その声は……ヌヌ君? し、進化したのかい!?」
「進化? あ、おー、そうか。そうだな、進化だな!」

 熊は一度だけ首を傾げ、ぽんと手を打つ。そんな熊と、経緯を知るがゆえに微妙な顔しかできないあたしを交互に見て、魔術師はまた眉をひそめる。進化って何だっけ。

「そ、そうか。いや、なぜか交信魔術が届かなかったのだが、進化の影響だったのかもしれないね」
「お?」
 
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