-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
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シーンV:終幕の物語(2/2)

 
「ひゃーひゃーひゃーっふぉぉぉーーうぅ!!」

 ふうむと顎に手を当て考えて、二秒でどうでもよいことに気付いて考えるのを止める。とりあえず今はこっちである。あたしはよいしょと熊の肩に足を掛けよじ登る。熊の頭の上に立ち、そっと片足を上げる。そうして、せいやと雄叫ぶ。

「はぷぉん!?」

 眉間目掛けて振り下ろされた踵の一撃に、熊が面白い悲鳴を上げる。ドロップキックの時とはまた違うな。こめかみ辺りに回し蹴りとかならどんな声がするのかな。
 ぐらんぐらんと揺れる熊の頭から飛び降りて、十点満点の着地を決めながらそんなことを思う。顔を押さえながら呻いて悶える熊を冷めた目で見る。どうでもいいがどっちのどこに痛覚なんてあるのだろうか。

「おおぅ……! ハ、ハナ! してない! まだ暴走してないから! ちょっとテンション上がっただけだから!」
「あらそう」
「あらそう!?」
「ごめんごめん。それより、ホントに倒しちゃったのね」

 オーガが眠るであろうモヒカン塚を眺め、頬を掻く。あまりにも虚しく呆気ない幕切れだったが、何にせよこれでグラ……グリ? グレイシア非行浪漫? とやらも終わりか。うん。今更だけどそんな名前だったかな。大分初期の段階から間違えていた気もするが、まあいいか。どうせ今潰れたし。

「へへ、まあな! 最後はハナの出番なかったな」
「あらまあ、何を言ってるのかしら。あたしがコントロールしてたんだからこれもう限りなくあたしの手柄でしょ」
「えええ? マジでか!」

 がーんという効果音が聞こえそうな顔であたしを見る熊に、思わず噴き出す。

「あはは、冗談よ。ヌヌ、とにかくぐっじょぶよ。誉めたげる」
「お、おお、ハナ! なんか素直にそう言われると逆に戸惑うけど、とにかくやっとオイラを認めてくれたんだな!」

 いや、あんな一騎当千の大活躍をされてはさすがのあたしも素直に認めざるを得ない。というか一体あたしを何だと思っているんだこの熊は。鬼とか悪魔か。心当たるな、まあまあ。

「もー、素直に喜びなさいよ。風穴空けちゃうゾ?」
「お、おぅ。わ、悪かったよ。てゆーか怖いんだけど」

 小悪魔のような顔で悪戯っぽく笑えば、熊はなぜだかとても怯えた風に表情を引きつらせる。表情筋があるとは思えないがそんな風に見えた。実に失礼である。空けようかな、風穴。

「まあでも、ここまで来れたのは間違いなくハナの力があってこそだけどな」

 そんなフォローはあたしの内心を目ざとく察してのことだったろうか。いや、あたしも邪推は止めるとしよう。何にせよ、過程はともかくとして遂に救世の勇者となれたのだから。そんなことは瑣事でしかない。そして今更だが盗賊団を一つ潰したくらいで世界を救ったことになるのかどうかも些細な問題である。

「それじゃここは一つ、二人の勝利ってことでオッケー?」
「おう、そうだな!」

 酌み交わす祝杯のように、高く掲げた拳と拳を合わせて笑う。遠い空に浮かぶ銀の太陽がそんな二人を優しく照らす。こうして、あたしとヌヌの長いようで短い冒険は、文句なしのハッピーエンドをもって幕を閉じるのであった。

 花と緑の、改め、花と黄色の――完!
 
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