-花と緑の-

□第四話 『花と伝説の……』
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シーンV:星屑の預言(1/3)

 
 翌朝はウネ子ちゃんちのベッドで目を覚ます。なんでここで寝てるかはよく覚えてない。全品制覇の途中だった気がするのだけれど、あたしともあろう者がまだ見ぬ味を残したまま食事を終えてしまったとでもいうのか。

「おはようございます。ご気分はいかがですか?」

 馬鹿なと眉間を押さえてうずくまっていると、頭のお花をふりふり揺らしてウネ子ちゃんがやって来る。あれ枕にしたら気持ちよさそうだな。こぽこぽとハーブティーを煎れながら小さく首を傾げたウネ子ちゃんに、あたしは後ろ頭を掻いて大きな欠伸を一つ。

「んあー、なんかふわふわしてる。あたし昨日どうしたんだっけ?」
「あ、えっと、マボロシキノコのソテーを召し上がられた後、お休みになられました」

 そう言って微笑むウネ子ちゃんから湯気の立つカップを受け取って、あたしはわなわなと震える。

「マボロシキノコ!? 幻の珍味ってこと!?」

 食べたっけそんなの!? どれだっけそれ!?
 そんな珍しそうなものを覚えていないだなんて、これは由々しき事態ですぞと詰め寄れば、しかしウネ子ちゃんはふるふると首を振る。にっこりと笑い、何気ないことのように、

「いえ、味はただのデジタケですが、楽しい幻が見えるキノコです」
「それ食べちゃ駄目な奴ぅうぅぅー!」

 おおぉぉーーい!? 何食わしてんだあのもじゃもじゃはぁ!? 多分あたしが勝手に食べたんだろうけれども! 出すなよそんなもん!

「大丈夫です。後遺症はありませんので」
「それは何か起きた後の奴じゃないの!?」

 今思い返せば確かに、なんだか不思議な生き物があちこちを飛び回っているのが視界の端にちらちらと見えていた。どこもかしこも元から不思議な生き物だらけでそんなものかと思っていたけれど。よくよく考えれば宴の前には見なかった奴ばかりだった。

「ぅええ〜? ちょ、あたしホントに大丈夫なの? ねえ!?」
「し、心配いりませんよ。半分眠って起きながら夢を見るだけですから。って村長が言ってました」
「ゆ、夢?」

 なんて、幻よりは大分マシな言葉で言い直されて、半ば納得しかける。情報源に若干の不安を覚えたけど。騙されているような気もすごくしたけど。
 ん? あ、いやでも、あれ? いやいや、待って待って待って。

「ね、ねえ、でもあたしなんか記憶がまるっとなくなってんだけど……」
「ああ、それはですね、一つ食べたら半分眠るだけなのですが、もう一つ食べたら完全に眠ってしまうんです」

 おおーい!? だからか!? 沢山のお料理を残したまま宴半ばで倒れたのは!? じゃなくてぇ! てゆーか誰か教えてよぉーお!? ぷりーず・てる・みぃぃー!!

「よく眠れるんですよ。ぐっすりでしたでしょう?」

 でしたけれどもっ! あたしの晩餐んんーー!!
 もはや何に対する憤りかも定かでない。いや、どちらかと言えばお料理を全部食べられなかったことのほうがやや重大である。ああ、そうだとも。毒キノ……夢見るキノコなんてたいした問題じゃないのだとも。ないのであるからして、よし、そうだ。うん、忘れよう。前を向けあたし。思い出でお腹は膨れない。

「ウネ子ちゃん」
「はい、何でしょう?」
「盗賊退治できたら嬉しいよね」
「え? ええ、勿論です! とても困っていますから」
「つまり……終わったらもっかいやるよね?」

 そのためだけでもあたしは盗賊とくらい戦える。欲望まみれ過ぎて逆に真っ直ぐ澄んだ目で問えば、ウネ子ちゃんは一瞬たじろいでからこくこくと頷く。

「あ……はい! 勿論、昨日よりもっと盛大に!」

 身振り手振りを交えて、なぜだか少し焦った風に来たる祝勝会の盛大さを語る。そんなウネ子ちゃんにあたしは小さくガッツポーズをして、その胸に義憤の炎を燃やす。いや、あんまり小さくはなかったかもしれない。むしろ全力のガッツポーズだった気もする。炎もリアルにちょっと出た気がする。なぜって村で一番腕のいい料理人も盗賊団に捕まっているという補足があったからである。
 ともあれ、待っていろ悪党ども。この勇者ハナが手ずから貴様らを血祭りに上げてくれるわ。台詞が大分悪役だったけど、ええい、何でもいい。行くぞ、今こそ勇者の務めを果たす時だ!
 
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