-花と緑の-

□第四話 『花と伝説の……』
5ページ/21ページ

シーンU:勇者の晩餐(1/3)

 
「うぉむ、うぉいあぃんぬう?」
「ん? いや、ちょっとな」

 早速遠慮もせずに我が家のようにくつろいで、ウネ子ちゃんの焼いてくれたパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、ふとおかしな顔をしていたヌヌに気付く。問えばふうむと唸ってまた変な顔をする。ちなみにウネ子ちゃんとは人面植物ちゃんのことである。名前はアルラウモンというらしい。思った以上にまんまだった。そして手作りのお菓子は思った以上に女子力が高かった。敬意と親愛を込めてのウネ子ちゃんである。ヌヌには微妙な顔をされたけど。

「なんかあの預言さ、似たようなのどっかで聞いた気がして」
「うぇ? おんえ?」
「いやぁ、それがどこだったのか」
「わぅ、おーおーあんおぅむ」
「ああ、確かによくあるっちゃありそうな奴なんだけどさ」

 そんな会話を交わすあたしたちに、今度は大皿のクッキーを焼いてきてくれたウネ子ちゃんがぽかんとする。言いたいことは大体分かっていた。いや、どれだろう。全部かな。とりあえず互いに口塞がってる状態でも会話が成立しているこの以心伝心ぶりに関しては、若干のむず痒さとまあまあの気持ち悪さを感じていることだけ言っておこう。
 ヌヌは口の周りについたシロップをべろりと舐め取って、考え込むように腕を組む。あたしはその隙にクッキーをいただくことにした。

「なあ、ハナ。ちょっと思ったんだけどさ」
「うぇ? ふっひーほーへっう?」
「いや、クッキーは食べてくれていいんだけど。それよりさ、預言の黄色い星がどうとかって奴、あれオイラじゃないかと思って」

 少しだけ照れ笑うような気持ち悪い表情を浮かべ、少しだけ誇らしげな気持ち悪い態度で、ヌヌがそんな気持ち悪い寝言をほざく。あたしは真顔で黙って頷いて、またクッキーをいただく。

「いやいやいや、流さないでくれよ。違うんだって、ほら! だって金色の輝きってオイラのデジソウルだろ? 流星ってオイラの地獄絵図だろ? だったら黄色い星もオイラじゃね? って思ってさ」
「ふぇー、あっあーおーふぁ?」
「汚濁は……あれだ、ハナの心の闇か何かじゃないか?」
「ふぉい」

 ねえよ、そんなもん。いや、ありませんことよ。この純真無垢を絵に描いたようなあたくしに限って! おふざけやがらないでいただきたいものですわ! きー!
 クッキーとパンケーキをもごもごさせながら、澄み渡り過ぎた清流のような目を緑の汚濁様に向ける。うん、どう見ても汚濁である。むしろ汚濁の底の凝縮された沈澱物が何かの間違いで命を宿したかのような哀しい生き物である。うん。ちょっと言い過ぎたけど、お互い様だかんね! ごめんて!
 というようなあれこれをジト目と荒い鼻息で訴える。ヌヌの顔がちょっとだけ引きつった。

「ま、まあ、でもあれだよな。まだいろいろ何とも言えない感じっつーか、その……なあ、アルラウモン?」
「へ、あ、ええ!?」

 口だけむしゃむしゃ動かしながら視線は微動だにしないあたしに、ヌヌの目が泳ぎに泳いで、耐え切れなくなったかたまたま視界に入っただけであろうウネ子ちゃんへ話を無茶振る。振られたウネ子ちゃんはあたしとヌヌを交互に見て、ただただ戸惑うばかり。あたしのウネ子ちゃんを盾にする気かこの野郎。
 あたしはウネ子ちゃんの煎れてくれたハーブティーを一口。鼻孔から全身を駆け巡るような優しく爽やかな香りはまるで妖精の……じゃないや。口の中のものをごくんと飲み込んで、ううんと咳ばらいをする。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ