-花と緑の-

□第四話 『花と伝説の……』
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シーンT:預言の勇者(1/3)

 
 金色の輝きが天を衝く時、降り注ぐ流星とともに救世主は舞い降りるだろう。
 その者、緑の汚濁を従え、血に染まる鈍き剣を持ちたる勇猛なる戦乙女なり。
 子羊よ、救いを求めるならば百皿の晩餐を捧げ懇願せよ。
 さらば救世主は黄色き星の剣をもって、悪しき支配者を討ち滅ぼすであろう――


「……はあ」

 両腕を広げ、祈りを捧げるように突如そんな詩の朗読を始めたもじゃもじゃさんに、あたしはぽかんとしたままとりあえずこくりと頷いてみる。もじゃもじゃさんの目に涙が浮かび、その口がへの字に歪んでぷるぷると震えた。もじゃもじゃさんはもじゃもじゃの腕毛で涙を拭って首を振る。

「失礼しました、救世主様。実は今、我が村は危機に瀕しているのです」
「危機?」
「数日前に突如現れた盗賊たちに、村の若い衆が連れ去られてしまったのです!」

 だん、と床を叩き、歯ぎしりをする。よくよく見れば辺りの村人たちはあたしよりも背の低いものばかりだった。そんなちびたちを見ながらヌヌが訝しげな顔をする。

「見たとこ成長期ばっかだけど、さらわれたのって成熟期とかか?」
「はい、腕に覚えのあるものもおりましたが、子供たちを人質に取られてしまい……!」

 悔しげに牙を打つ。何やらどうにも、思った以上にえらい状況だったらしい。食糧泥棒から悪事のレベルが段違いに上がった気がするけれど。あれ? あたしまた早まった!?

「先程の詩は、我が村のシャーマンによる預言なのです」
「よ、預言?」
「一目見て確信致しました。血に染まる鈍き剣の戦乙女……まさしく貴女様に他なりません!」

 目を見開いて力強くそう語る。預言の救世主……あたしが? いや、言われて思い返せば確かに、先程の詩は気味が悪いほどにあたしと符合するように思えた。

「いやでも鈍き剣ってこれこん棒だけど……てゆーか緑の汚濁とか言ってた?」

 そんなヌヌのどうでもいい茶々はさておく。第一節はまさに先程の戦いで起こったことそのものを、まるで我が目で見たかのようになぞっている。そして第二節に語られる救世主の姿もまた、今のあたしと重なる。まさか、本当に……!?

「そんなの従えてないよな? なあ、オイラじゃないよな? だって降ったのウンチだもんな?」

 何を言ってるかはちょっとよく分からない。なので、ここは思い切って放置することにした。あたしはもじゃもじゃさんを真っ直ぐに見据え、息を呑む。胸が高鳴った。この鼓動が、あるいは答えだろうか。第三節を心の中で復唱する。百皿の晩餐と聞こえたのは決して幻聴などではなかったはずだ。知らず喉が鳴る。今って何時だっけ。

「なあ、ちょっと聞いてる? 聞こえてない感じ? 汚濁じゃないよな、オイラ?」

 そして第四節が告げる“黄色き星の剣”。まだ見ぬそれがあたしの救世主としての本当の力だというのだろうか。いずれ手にするその神々しき姿が淡く瞼の裏に浮かぶ。
 あたしはもう一度もじゃもじゃさんへ目をやって、小さく頷く。

「詳しい話を聞かせてくれる? それと、そのシャーマンにも会ってみたいんだけど」
「いや、あのね」
「ええ、勿論。是非お会いになってください。しかし、やはり貴女に間違いなかったのですね!」
「ちょっと一回オイラとも言葉のキャッチボールをしてみようか君たちぃ!?」

 というヌヌをほったらかして立ち上がる。後で遊んだげるから。

「あれぇ、スルー!? オイラのボールは何処へ!?」

 なんて声に優しい笑顔で二度三度頷いて、そしてその場を後にする。まだ後ろで何か聞こえてはいたけれど、いろいろ忙しいので悪いが後回しにさせてもらうとしよう。あたしはもじゃもじゃさんの後に続き、村の外れにある石造りの神殿に似た建物へと向かう。
 
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