-花と緑の-
□第四話 『花と伝説の……』
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シーンW:戦いの地へ(3/3)
「オーガモンだ。見るからにボスだな」
「ねえ、ヌヌ。気のせいだとは思うんだけど、なんか三重に見える」
ファンタジーに出て来るオーガそのものな怪物。の、両隣にはどういうわけか色違いの同じ怪物様ズがいらっしゃるように見えた。疲れているのかな。マボロシキノコでも食べたかな。穏やかに微笑んでみるが、ヌヌは首を振る。
「残念だけど現実だ。フーガモンにヒョーガモン……オーガモンの亜種だな」
またパチモンか。好きだなあいつら。虎パンツの赤いオーガと、氷柱の生えた青いオーガ。そしてベーシックな緑のオーガを順に見て、あたしは肩をすくめる。ふぃーやれやれと息を吐き、ねえ、とヌヌに呼び掛ける。うん。
「がんばれ」
「あれ見てまだ言えるの!?」
「愛と正義とご飯のためよ」
「一個おかしくないかな!?」
おかしくなどない。美味しいは正義であり愛なのだから。ごちゃごちゃうるさい奴である。確かに勝機は欠片もないように見えるし、一矢報いることもなく返り討ちに合うのは火を見るより明らかだ。挑む意味は皆無と言っていいだろう。成る程、改めて考えるとあたしの言っていることは一個どころじゃなく全部おかしいようだ。認めよう。でもあたしは美味しいご飯を食べたいのである。あいにーどでりしゃすご飯!
「なあ、一応言っとくけど、オイラが玉砕したってこれ多分ちっとも解決はしないぞ」
「それはわかってんだけど、なんか自爆的な奴とかできたりはしない?」
「しないよ!? よしんばできたとしてハナはそれで満足しちゃう子だった!?」
むう、そう言われてしまうと良心がちくっと痛いな。いろんな意味で寝覚めも悪そうだし、仕方ないから諦めてやるか。やれやれ困った坊ちゃんだぜと肩をすくめる。という冗談はまあ、この辺にしておくとして。さて、実際問題どうしたものかな。
敵戦力はボスとおぼしきオーガ三兄弟を筆頭に、見えてるだけでゴブリンが四、五十……六十? ええと、いっぱい。後なんか初めて見る奴もそこかしこに。
というかあいつらそもそもこんなとこで何をやっているんだろうか。大勢でひたすら岩を運び続けているようだけど……そういえばここって採掘場だとか言ってたか。ニセモグラも鉱山にいたけど、なにゆえそんな美味しいご飯もないようなところにたむろしたがるのか。まったく理解に苦しむな。石しかないじゃないか。石が食べられるのか愚か者め。食べられるのかな。ちょっとかじってみようかな。
「ハナ、ハナ! 聞いてる? ちょっと聞いてくれてる?」
「へぇ? あ、え、何?」
そういえば泥も食べられたなと思考が明後日の方向に彷徨い始めた時、あたしを引き戻したのは煮ても焼いても無駄そうな緑の汚濁ことヌヌだった。
「そのよだれの理由は一先ず横に置いとくとして、ともかくオイラちょっと思い付いたことがあるんだけどさ」
「え? 自爆する方法とか?」
「まだ言うの!? その案は一回白紙に戻そうか!」
「冗談よ。で、どんなの?」
「冗談の目だったかな今の……まあいいや。えっとな、預言のことなんだけどさ」
崖下の盗賊たちをちらりと見て、辺りを見渡し、そして最後に空を仰ぐ。釣られて見上げた空はまだ日も高い昼の青空だった。
「って、黄色い星? 探しに戻るの?」
とても面倒臭いのですがとはっきり顔に書いて嫌そうに首を傾げる。けれどヌヌは即座に首を振り、再び辺りを見る。
「いやさ、流星って要は上から降ってくる石の塊なわけだろ?」
「まあ、乱暴に言えばそうだろうけど、それが何?」
「ああ、オイラここ来てふと思ったんだけど、それってさ……」