-花と緑の-

□第三話 『花とモヒカン狂想曲』
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シーンX:藍色の希望(1/3)


「で、モヒカンは?」

 生けとし生けるものを拒む死地と化した戦場跡を離れ、涙が出るほどに空気の澄んだ沢で一息を吐く。この世の地獄を振り返って問えば、ヌヌは少しだけキョトンとする。さっき星になったのになぜここでピンピンしているのかはもう気にしないことにした。

「モヒ? ああ、あのウンチの山の下だと思うけど。……あれヒレだぞ?」

 今更もういいよそんなの。あたしもまあまあ早い段階で気付いてはいたけど。今となってはどうでもいい。そんなことより、

「とりあえずは全部倒せたわけね」
「へへ、まあな!」

 鼻の下を擦るような仕種とともに誇らしさと照れの混じる顔で笑う。どうしよう、すごく殴りたい。この顔見てたら巻き添えにされた怒りが再燃しそうだ。しかし結果だけを見るなら助けられたと言えなくもなくもないわけだし、何より既に一回ぶっ飛ばしてるしな。ぐっと我慢をして、咳ばらいを一つ。落ち着け落ち着け。

「まあいいわ。でもあれもう禁止ね。禁じ手だから」
「禁じ手!? おお、なんかかっけーな」
「そうよ、かっけーの。だから二度と使わないこと」
「わ、わかった。胆に銘じておく」

 思った以上にドスのきいた低い声が出た。と思ったらヌヌが青褪めながらあかべこのようにカクカクと首を振る。分かってもらえて何よりよ。
 さて、何はともあれ、となると現状で残る問題は後一つか。ふうと息を吐いて、辺りを見渡す。
 さらさらと流れる小川。疎らに茂る木々。その先に見えるのは高い高い岩壁。見覚えがあるようで、やっぱりない景色。

「それで、ええと……ここはどこ?」

 あたしが問えばヌヌは軟体をうにょーんと伸ばして二つの目玉をキョロキョロさせる。そうして、あたしを見てふと笑う。躊躇いも戸惑いもなく、はっきりきっぱりとこう言い放つのだ。

「分からん」

 あたしはがくりとうなだれる。だと思ったよ。いいの、期待なんてしてなかったもんね。断じて。もう一度辺りを見て、ぐぬぬと下唇を噛む。
 ツッチーから鉱山周辺の地図は貰っているが、肝心の現在地がさっぱりでは何の役にも立たない。お腹の減り具合からして時刻は多分お昼頃だろう。村を発ってから二、三時間といったところか。そんな時間をあれだけ出鱈目に走り回ったんだ。山を迂回する最短のルートなんてとっくに外れてしまっているだろう。くそ、また迷子か。一体どうなってやがる。神様もうよかとです。

「とりあえず一回村まで引き返してみるか? あんだけ暴れたし、なんか足跡くらい残ってんだろ。多分」
「……そうね。見たら道も思い出すかもしれないし」

 下手に進むよりは振り出しに戻るほうがいいか。果てしなく面倒だけど、仕方がない。まあ、そもそもちゃんと足跡とか残ってる保障なんて欠片もないから戻れるかどうかすら半ばギャンブルなのだけれど。
 はあーあ、と、あたしとヌヌのでっかい溜息がシンクロする。そんな時だった。

『――ハナ君――?』

 ジジジ、というノイズのような音に混じって、聞き覚えのある声が確かにあたしの名前を呼ぶ。

「は……えぇ?」
「ハナ、それ!」

 やたらと近くで聞こえた声に慌てて右へ左へ顔ごと視線を振って、ヌヌの言葉に自分のポケットが目に留まる。ちかちかと光るポケットからその光源を、小さなディスプレイより光を放つその端末を取り出す。すっかり忘れていたそれは、藍色の大魔術師様がくださった“デジヴァイス”――もどき。思わず鼻から涙を噴きそうになる。
 
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