-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
5ページ/26ページ

シーンU:泥沼の美食(1/5)

 
 肩で息を吐く。生い茂る木々が途切れて視界が開け、広々とした平原が顔を出す。もう一度、体中の臓器ごと吐き出すようにぼひゅふぅーと息を吐く。

「出られた……!」
「ああ、出られたな!」

 涙すら浮かべて喜びを噛み締める。やったのだ。やり遂げたのだ。別にまだ全然ゴールじゃないけど、方向分かれば全然近かったけど、とにもかくにもあたしたちはジャングルからの脱出を果たしてみせたのだ。
 ジャングルを臨む平原には小さな集落が見えた。石をドーム状に積み上げたような家々の煙突からは細く煙が立つ。夕餉の支度だろうか。風に乗っていい匂いが鼻孔をくすぐる。ごぎゅるるるとお腹の中の小さいハナさんが吠えた。

「すげえ音だな。よだれも出てるぞ」
「えー、そんなの出てなじゅるる」
「だだ漏れだけど!?」

 ははは何をおっしゃる。乙女からそんなの出るわけなかろうに。しかしいい匂いだな。じゅるり。
 半ば無意識に、夢遊病のように集落を目指して歩き出す。あたしを突き動かすこの衝動の名は食欲である。であるが断じてよだれは垂れていない。じゅるじゅるり。

「まあいいか。オイラも腹減ったしな。もっとひもじそうな顔で押しかけてなんか食わしてもらおうぜ」
「まあ卑しい。乗った」

 かくしてあたしたちは、かつてないほどに心と腹の音を合わせて、とりあえず一番立派そうな建物を目指して駆けてゆくのであった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ