-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンY:悪夢の続き(1/1)

 
「おーい!」
「ヌヌくーん!」

 盗賊も片付いたことだしさあて帰るかと山道を降り始めて二分くらい。あたしとウィザえモンは忘れ物があったことに気付いて引き返す。死にはしないとウィザえモンが言うので口一杯に毒リンゴを詰め込んでおいたニセモグラを横目に、ヌヌが吹っ飛んでいった方向へ向かって呼び掛ける。

「ハ、ハナ! よかった! 忘れられたかと思った!」

 まだニセモグラに伐採されていなかった雑木林へと入り、声を頼りに見つけ出したのは何かアバンギャルドなアートだった。それがこん棒ごと木のうろにジャストフィットしたヌヌであることを理解するには多少の時間を要した。しかし思ったより遠くまで勢いよく飛んだものだ。力の加減をする余裕がなかったとはいえ、さすがに悪いことをしたな。まあ、それを言うならそもそも本人の了承も説明もなしにやってしまった辺りからあれだけれども。
 うんせほいせとウィザえモンと一緒にこん棒を引き抜く。にゅるっぽん! というとても嫌な音を立ててヌヌが生還する。

「ふぃー、やれやれ。その様子じゃどうやらニセドリモグモンも倒せたみたいだな」
「ええ、ヌヌのお陰でね」
「はっはっは。串刺しになった甲斐があるってもんだぜ!」

 ヌヌは腕を組んでうんうんと満足げに頷く。まあ、そこそこ酷い目にも合わせたし、水は差さないでおいてやろうか。ところでどうでもいいけどモグだっけ。何かゲシュタルトが崩壊してよく分からなくなってきた。

「ようし、そんじゃとりあえず村に戻るとするか! ツチダルモンに報告してやろうぜ!」
「そうね、暴れたらお腹も空いたし」
「ハナはそればっかだな」
「うるさいなー、もう」

 こん棒でほっぺをむにゅんと突いてやる。目的を遂げたからかヌヌはとてもご機嫌だった。軟体を歪ませながら嬉しそうに笑う。じゃれ合ってるみたいでなんか不愉快だった。

「はあ、しっかしこれからどうしよっかなー」
「ん? どうって?」
「いや、だって盗賊も倒したことだし」

 勇者の目的は遂げられた。後はあたしが元の世界に帰ることだが、とりあえずはウィザえモンの調査結果待ちだろう。それまでどうしたものかな。

「え?」

 折角だしこの世界を少し回ってみるのも悪くない。他にも美味しいものがあるといいな。なんて、完全にエンディングの気分でいたあたしに、しかしヌヌは不思議そうに眉をひそめる。

「えって、何?」
「いや、ハナこそ何を言ってんだ?」
「うん?」
「盗賊退治なら、まだまだこれからだろ?」
「…………はい?」

 目を丸くして、首を傾げる。ええと、え、何? 何を言ってらっしゃるの? あたしはついさっきあの恐ろしい盗賊を見事に成敗してみせたはずだけれど。嫌な汗が額に滲む。

「おいおい、何言ってんだよ。盗賊が暴れてる村はまだまだ先だぞ」

 冗談きついぜお嬢さん。とでも言わんばかりのむかつく顔でヌヌが腕をひらひらさせる。ええと、何だ。何だろう。何が起こってるんだっけ。脳細胞よ再び覚醒せよと険しい顔をしてみる。
 確か、他の村でも盗賊が暴れているらしいと、ヌヌはそう言っていた。そうして、あたしたちはこの村にやって来た。やって来て、そして土田さんから話を…………あ。あ、あああああ!?
 土田さんたちは食料泥棒が例の盗賊だなんて自覚はなかった。なかったのに、盗賊が暴れてるらしいなんて噂が立つのは、考えてみれば確かにおかしい。ヌヌが言っていたのは、ヌヌの村まで届いた噂は、あの村じゃなかった……!?

「おい、ハナ?」
「ハ、ハナ君?」

 隣にいるはずの二人の声が次第に遠ざかる。否、遠ざかっているのはそう、あたしの魂的な奴である。あらあらうふふ。これなら空でもどこでもひとっ飛びじゃない。ようしハナちゃんこのままフライアウェーイ!

「ど、どうした!? ハナ! ハナあぁぁぁ!?」

 今にも終わりそうではあるけれど、あたしの旅はどうやら、まだまだ始まったばかりであったらしい。うふふふふ。



>>第三話 『花とモヒカン狂想曲』へ続く
 
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