-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンX:邪神の悪夢(1/6)

 
「本当だ、あいつは……あいつはニセドリモゲモンだ!」
「ニ、ニセ?」
「そうだ! ドリモゲモンに似ているからニセドリモゲモンだ!」
「……いや、まだそのドリモゲモンってのに会ったことないんだけど」

 パチモン先に出されても。何が何だかわかんないぞ。

「貴様らぁぁ……!」

 まあ、そんな暢気なことを言ってる場合ではまったくないのだけれど。ニセモグラはこめかみにぶっとい血管を浮き上がらせて、モグラとは思えぬ獰猛な顔であたしたちを睨み据える。
 ただ、声だけはいやに静かで落ち着いて、だからこそあたしたちは心底から震えに震え上がったのだけれども。

「二つだけ、聞いておこうか……」
「は、はひ!?」
「この火は、一体誰の仕業かな? んんん? くれぐれも、正直に答え給えよ……!」
「え!? いや、ええと……」

 助けを求めるようにヌヌとウィザーモンを見る。見るが、寄越しやがったのは助け舟どころか意味ありげな視線だった。ちょおっとおぉぉ!?

「ほう……成る程、貴様か……!」

 ニセモグラの鋭過ぎる眼光があたしをしっかりばっちり捉える。ほぎゃああぁぁ!?

「では、もう一つだけ聞いておくぞ」

 怒りにぷるぷる震えながら、ニセモグラは前足の爪を器用に一本立ててみせる。あるいは、火よりもこちらの方が重罪であると言わんばかりに。

「先程我輩を……そう、何と言ったかな。確か……“ニセ”などと呼んだように聞こえたのだが」

 そこか。放火よりそこか。

「さて、我輩をそう呼んだのは――」
「あ、それはこいつです」

 隣のヌメヌメを指差して食い気味に即答する。

「ハナさあぁぁん!?」

 なんか変な汁を盛大に噴きながらヌヌがあたしを見る。見るが、あたしはそっと目を逸らす。ここまで来たら地獄まで付き合い給えよヌヌ君。

「ほほおぉぉう、貴様かあぁぁ……! 生まれ持ったこの身の不幸を、“ニセ”の名を負った我が悲劇を……欠片も慮ることなく無神経にそう呼んだのはああぁぁ!?」

 怒髪天を衝かんばかりに体毛を逆立てて、ニセモグラが怒号を上げる。ぶわっと、なんかねちっこい汗が顔中から噴き出した。

「真似したわけでもないのに“ニセ”! 貴様に分かるかこの呪われた宿命、この悲運が! いいや分からん、ヌメモンなどには分からん! 分かるものかあぁぁ!」

 星をも射抜かんばかりの怒号が轟く。知るかと言いたくもなったがとても言える状況ではなかった。ニセモグラは己が運命の不条理に神へと弓を引くが如く、鼻先のドリルを天へと突き付ける。

「おおおぉぉ! 喰らえ必殺! ニセドリルスピいぃぃぃン!!」

 ともすれば今にも空間すら貫くと錯覚するほど。けたたましい金属音と火花を上げながらドリルが唸る。今ニセって自分で言ったよね。という喉まで出掛かったツッコミはどうにか飲み下す。わざわざ油を注ぐまでもなく火はとうに燃え盛っていた。
 あかんあかんあかん! あきまへんでこれはぁぁ! さすがの救世主様も思わず使ったこともない方言が出るほどやばい状況だ。あ、ハルちゃん元気かなー。なぜだか唐突に大阪の親戚の顔が浮かんだが、もしかしたら走馬灯の一種かもしれない。

「ハ、ハナ君!? どうやら戦うべき時が来たようだが!?」
「うえぇぇえ!? 無理無理無ぅ理いぃぃー!!」

 ウィザーモンの言葉に慌てて首を振る。振りながらウィザーモンの陰に隠れる。いやいやいや、だっていきなり難易度跳ね上がり過ぎじゃないこれ!? なんかイベント二つ三つ飛ばしちゃってたりしない!?

「まぁー待って待って待ってください!」

 だが、そんな時に一歩を踏み出し声を上げたのは、意外や意外。なんとヌヌであった。

「いやいや、違うんすよ、へへ」

 まあ、あからさまに媚びへつらう態度は勇敢さから来るそれでは全然なかったが。ヌヌは揉み手をしながらへこへこする。あたしの中の勇者とパンピが軽蔑したい気持ちと何でもいいから助かりたい気持ちの間でぶるんぶるんと超揺れる。

「実はオイラ……オイラ、ゲレモンなんでげすぅ!!」
「……何だと?」

 ヌヌの叫びに、ニセモグラがぴくりと反応する。おおお!? よくわかんないけど効いてる!?

「貴様……!」
「へ、へい! なんでありましょうか!?」
「もう少しよく顔を見せてみろ」
「へ、へへへ、こんな顔でよければいくらでも」

 軟体を精一杯低くしてヌヌはそろりそろりとニセモグラに近う寄る。どうしよう、どっちかっていうと軽蔑したい。
 ともあれ、戦う勇気もないのでとりあえずは成り行きを見守ることしかできないのだけれど。

 ヌヌとニセモグラ、彼我の距離はほんの一メートルほど。ニセモグラはヌヌをしげしげと凝視し、そして、ふっと笑う。
 あれ、これはもしかして……?
 と、思ったのもしかし、束の間であった。
 
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