-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンW:悪魔の戦い(2/5)

 
 えっさほいさと廃材を運ぶ。散らばるがらくたの中から木材だけを選んで、廃坑の入口から少し進んだ辺りに積み上げていく。ついでにそこらの木の枝や葉っぱもトッピング。

「一体何する気だ、ハナ?」
「ふっふっふ。できてのお楽しみよ。それよりヌヌ、ちょっと火とか吐けたりはしない?」
「吐けねーよ!? 何だその発想!」
「いや、バロモンさんのメテオみたいな必殺技あったりしないのかなって」

 まあ期待してはいなかったけれども。役に立たないヌメヌメである。はんと鼻で笑ってやればしかし、ヌヌは意味深長な笑みを浮かべて首を振ってみせる。その笑い方は今までで一番気色悪いな。

「はっはっは、シニョリーナ。馬鹿を言っちゃあいけないぜ?」
「まあ、シニョーレ。どういうことかしら?」

 腹立つ顔にも至極冷静に問い返す。あたしも大人になったものである。ちなみに一番むかついたのはシニョリーナの発音である。

「我らヌメモン族にも必殺技の一つや二つはあるってことさ」
「え? それは妄想か何かではなくて?」
「ではなくてよ。酷いな。いいか、よく聞け。オイラの必殺技はその名を“ウンチ投げ”と言ってだな」
「やっぱりいいわ」
「どんな技かというとまず……」

 構わず続けるヌヌにぷちんと、何か脳みその中で糸のようなものが切れた気がした。おほほほほ、聞かなかったことにしてさしあげますから今すぐそのドブ臭い口をお閉じになってくださるかしら。
 というようなことを鈍器で語る。ってあらあら、ハリセンと間違えちゃったわ。繰り出すこん棒は音すら置き去りにしたと錯覚するほどの速度で戯言をほざくその口目掛けて振り下ろされて――けれど、一瞬の後にそれが叩いたのはどういうわけかただの地面だった。なん……だと!?

「ふはははは、甘い! その手は見切ったぜ!」

 あたしのこん棒をぬるりと回避して得意げに笑う。その動きは実に見事な反応速度と気持ち悪さであった。なんかほんのり成長してやがるぞこいつ。

「ちっ、やるじゃない。その調子で盗賊も頑張ってみる?」
「それは遠慮しておこう。恐い」

 まあ、どうやらランクアップしたのは戦闘系スキルではなく漫才系のスキルだったようだが。パラメータの割り振り確実に間違ってるぞ。

「そんなんだから毒リンゴ食べてウンチ投げる羽目になんのよ」
「落ちぶれてそうなったみたいに言うなよ。ヌメモン全否定か」

 とても肯定できる生態ではないけれど。あたしはやれやれだぜと肩をすくめて溜息を吐く。

「ねえところで、そんなことより火吐けないなら村に戻って火借りて来てくんない? もしくはその辺の木とかで火起こしてよ」
「気軽にさらっと重労働だな。どっちもオイラか」
「だってしんどいもん」

 戦士には休息が必要なのだ。そしてあたしはまあまあ働いて超めんどいのだ。準備もまだできてはいないことだし。わざとらしく溜息を吐いてみせる。そうして、ちょうどそんな時。

「火なら――」

 すっと差し出された杖の先端に、小さく火が点る。
 ほえ?

「これでいいかな、ハナ君?」

 そう言って、藍色のとんがり帽子の縁をくいと持ち上げ、魔術師は首を傾げてみせる。あたしは思わず声のトーンを上げて、

「ウィザーモン! え、何で?」
「何だ、着いて来たのか?」
「うん、やはり少し心配になってね。それに……」

 どこか申し訳なさげに笑い、頬を掻く。

「何か分かれば報せると言ったが、よくよく考えたら連絡手段がないと気付いてね」

 そんな言葉にヌヌと顔を見合わせる。連絡手段がない? うん、ほんとだ! 誰か気付けよ! あたしもだけれども!

「そんなわけでこれを渡しておこうと思ってね」

 そう言ってウィザーモンが差し出したのは、掌サイズの機械だった。青いスマホにも似た楕円形の端末。連絡手段というからには無線機か何かだろうか。四角い小さな液晶と数個のボタンしかないそのデザインは、はっきり言ってしまえば安っぽい玩具のようだったが。

「なにこれ?」
「デジヴァイスというものだ」
 
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