-花と緑の-
□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンW:悪魔の戦い(1/5)
じゃりじゃりと小石を踏む。ウィザーモンと別れてから少し。辿り着いたのはうら寂しい廃坑の入口。つるはしや荷車のようなもの、半壊したよく分からない道具が無造作に転がり、焚火らしき跡が所々に残る、キャンプ場にも似た広場だった。
廃坑は山肌に開いた横穴。入口には「立入禁止」とでも書いてあるのだろう立て札と、元はバリケードか何かと思しき廃材。そしてそこかしこに大小の足跡が見て取れた。閉鎖された廃坑に何者かが押し入っているのは間違いなさそうだ。
「ここね……」
「みたいだな」
足跡からして中々の大所帯。沢山ある小さな足跡はゴブリモンとは違うようだが、中に一つだけやたらでかいのが混じっている。見た感じ熊ぐらいはありそうなサイズだ。うん、てゆーかあれ? いやこれ無理じゃね?
「ようし、早速乗り込んでやろうぜ!」
「え、ぅええぇ!? ちょ、ちょっと待った!」
死に急ぐヌヌを慌てて引き留める。返す不思議そうな顔に若干の苛立ちを覚えながらも、ぐっと堪えてぐっとこん棒を握る。
「どうした、ハナ?」
「いや、どうもこうも……ええと、何? 真っ向勝負する気なの? あんたとあたしで?」
問えばヌヌは一度だけ眉をひそめてふうむと唸る。顎に手をやり思案するようなポーズは欠片も様にはなっていなかったけれど。やがてヌヌはぽんと手を打つ。
「言われてみればちょびっと無謀が過ぎる気もするな」
「馬鹿なの?」
「ストレートだな。いや、すまん。ハナならイケるかなって」
イケて堪るか。死ぬなら独りで死んでこい。しつこいようだがここにいるのは虫も殺せぬただのか弱い女子中学生だ。まあゴブリモンは殴り倒せたのだけれども!
「とにかく、やるならちゃんと何か手を考えないと。自分が食糧になるくらいの気概で言ってんなら引き留めないけど」
「それは嫌だな。オイラは命が惜しいぞ」
「ならその無い知恵振り絞んなさい」
まあ、喰われるなら喰われるで毒殺という手もある気はするが、勇者の手口ではまったくない上にそもそもこんなもん喰う馬鹿もいないだろう。一瞬頭を過ぎったナイスアイディアを残念ながら却下して、あたしは周囲を見渡す。
確か、食糧を奪いに来たのは夜だと言っていたな。現時刻は多分お昼前くらい。とあたしのお腹は言っている。まあまあ騒がしい割に気付かれていないところを見るに、昼間はお休み中だろうか。見張りもいないなんて随分と無用心だが。このまま寝込みを襲うのも一つの手ではあるか。
「ん? なんだ?」
ちらりとヌヌを見て、はあやれやれと溜息を吐いて肩をすくめる。いやいや。中にも見張りがいないとは限らないし、構造も分からない敵の根城にやあやあ我こそはと乗り込むのはあんまりにもあんまりだろう。何より戦力的に不安がたっぷりいっぱいあり過ぎる。
「あ、分かった。さては失礼なことを考えてるな。オイラが頼りないとか思ってんだろ?」
「うん」
「うんて」
「ねえ、それより、爆弾かなんか持ってない?」
「唐突だなおい。いや持ってないし、発想がこえーよ!?」
駄目か。毒殺、闇討ち、生き埋め、どれも実行にはカードが足りない。辛うじて勇者っぽい作戦がヌヌの特攻だけというのも色々あれだが、なりふり構ってもいられない。
もう一度辺りを見回す。転がる廃材、焚火の跡、壊れたバリケードを順に見て――そうして、ふと思う。
「ねえ、ヌヌ」
「うん?」
「あのバリケード、その辺の廃材とかで直せないかな」
廃坑の入口に散らばる木の板やらを視線で指して、問えばヌヌには眉をひそめられる。
「閉じ込める気か? 壊して入ってったんだろ?」
「うん、そうなんだけど」
廃坑に目をやり、再びあたしを見て、そしてヌヌはぎょっとする。
魔王か何かに見えたと、後にヌヌは語る。