-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンY:黎明の出立(2/2)

 
「ハナさーん!」
「きゅーちぇしゃしゃまー!」
「ご武運をー!」

 声に一度だけ振り返り、手を振るバロモンさんとちびたちにぎこちなく笑い返す。

「ヌメモーン、しっかりやるのじゃぞ!」
「はっはっは、任せとけっての!」

 その自信はどこの異次元から湧くのだろうか。バロモンさんたちからは見えないよう、ヌメのほうを向いてあからさまに嫌そうな顔をしてやる。うん、なあに? みたいな顔すんな!

「あんたの前向き羨ましいわ」
「そうか? ハナも十分前向きだと思うけどな」
「そう見えたなら何よりですけど」
「つーかさ、そろそろその“あんた”とか“ヌメ”とか止めねえ? 一緒に旅すんだしさ」

 なんか距離縮めようとしてきだしたぞこいつ。この理不尽と不条理を踏み固めたが如きデッドオアアライブな修羅の道に、なにゆえ馴れ合いなどが必要だと言うのだろうか。

「てゆーか、あんたはともかくヌメはヌメでしょ。自分で言ったじゃない」
「いやいや、ヌメモン族はオイラだけじゃないしな。他にもいっぱいいるんだぞ」

 うわーい、やな世界。

「えーと、じゃあ何? なんて呼んでほしいの?」
「そうだな……あ、何だったらハナが付けてくれよ。オイラたちの友情の証にさ!」

 何情とおっしゃったろうか。聞き間違いだったとは思うけれど。ユージョー……You Joe? 何だっけそれ。誰だっけそれ。

「なあ、いいだろ。デジモンと一緒に戦った子供たちの中にはそうやって絆を育んだ奴らもいたらしいぞ」
「はあ、別に育みたくもないけど……えーと、じゃあ……」

 めんどくさいな。ヌメでいいじゃない。ヌメ、ヌメ、えーと、ヌー、ヌメ……。

「じゃあ、ヌヌで」
「ヌヌ!?」

 たっぷり2、3秒ほど熟考し、思い付いたナイスネーミング。よもや不満なんぞあるまいな、ああ〜ん? とヌメを見遣ればそこには満面の笑顔。うん?

「ヌヌ……おお、ヌヌか! いい名前だな、ありがとうハナ!」
「え? いや、うん、どういたしまして」

 どうやら不満はないらしい。ないのか。いや、願ったりだよ? あたしは全然ちっともこれっぽっちも一向に構わないんだけれどもね。なんかほら、あたしそれまだ本気出してないってゆーか。ねえ。うん。何言ってんだろ。いいや、もう。

「んじゃま、行くとしますか!」

 俄然張り切るヌメ、もといヌヌに溜息を一つ。こん棒を担ぎ直して足取り重く歩き出す。

「はあ……生きて帰れるかな」

 ぽろりと零れた救世主の弱音はしかし、今さっき絆とやらを育んだはずのそのパートナーもどきには届かない。前途は間違いなく多難。今の所はハッピーエンドの兆しの欠片も見えやしない。それでもこうしてあたしは、まっこと不本意ながら致し方なくも、この道を歩き始めるのであった。



>>第二話 『花とパチモン男爵』へ続く
 
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