-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンW:勇者の戦い(2/5)

 
「待てえい!」
「ゴブ?」
「これ以上の乱暴狼藉は許さぬ!」

 この村の長として、と。そう続けたのは真っ赤な髪を逆立てる見覚えのある背中。だん、と地を踏み鳴らし、声を荒げる。その姿にあたしたちは目を丸くする。

「バ、バロモンさん!?」
「長様ぁ!?」

 名を呼べば一度だけ振り返り、こくりと頷く。ここは任せろとばかり、背中で語る様はこの場の誰よりよっぽど勇者だった。バロモンさんは眼光鋭くゴブリモンたちを睨み据え、そうして、おもむろに両の手を天にかざす。その様にヌメが驚愕の表情を見せる。

「まさか長様……“あれ”をやる気か!?」
「あ、あれって?」

 問えどヌメは答えない。見ていれば分かるとその表情で語る。普通に教えちゃいけない決まりでもあるのだろうか。
 ややを置き、バロモンさんはゆっくりとかざした手を水平に広げる。たったそれだけの所作。だというに、沸き立つマグマが如き言い知れぬプレッシャーに、ゴブリモンたちさえもが微動だにできない。ごくりと、固唾を飲む。その、刹那。

「ふぉっ、おお……ふぉはああぁーー!!」

 牙の列ぶ鬼面の口から、弾けるような叫びが静かな密林にこだまする。広げた両腕を右へ左へ激しく振るう。それはさながら逃げ惑う獲物に追い縋る蛇のように。

「はあ! はっ! ちょいやっさあぁ!!」

 裂帛の気合いが怒号となって爆ぜる。その叫びと動きに、あたしの頬を一筋の汗が伝う。これは……!

「ヌメ……」
「む、何だ?」
「バロモンさんがとち狂ったみたいなんだけど」

 追い詰められ過ぎた弱者の末路か。くねくね踊って奇声を上げる憐れなその姿に、思わす視線を逸らす。もう駄目なんだ。あたし、ここで死ぬんだ……。お母さん、お父さん、ごめんなさい……。

「って、おおぉーーい!? 何諦めてんの!? 違うから! とち狂ってはいないから!」
「へぇ?」

 膝から崩れ落ちたあたしにヌメが叫ぶ。長い舌がベロンベロンとうごめく様は不愉快以外の何物でもなかった。

「あれは長様の必殺技――“メテオダンス”だ!」
「メテオ……ダンス?」
「そうだ。大宇宙の精霊に祈りを捧げ、空を漂う星の欠片を落とす禁断の必殺技だ!」

 禁断の……必殺技!?
 大宇宙から星の欠片でメテオ!?
 あたしの聞き間違いかもしれないがもしかしてあの変な踊りで隕石落とすとかおっしゃってらっしゃってございますか!?

「ちょ、ちょっと待って! え? メテオ? 落ちるの? ここに?」
「その通りだ! あんな奴ら一瞬で消し飛ぶぜ!」

 消し飛ぶぜじゃなくて。そこに至る過程はまあ置いておくとして、問題はそんなことじゃなくて、

「あ、あたしたちは!?」
「ん? 何がだ?」
「だから落ちるんでしょ、隕石! ここに! こんな傍にいるあたしたちは!? ま・き・ぞ・ええぇ!!」

 食いかからんばかりに詰め寄る。食わないけどこんなもん。ヌメはあたしの言葉に少しの思考を置いて、そしてまたはっとなる。

「ホントだ! どうしよう!?」

 やったから! それさっきやったから! 馬鹿なのもう知ってるからあ!

「バロモンさーん! ストップストップ! それちょっと待ってお願いだからあ!!」

 窓から身を乗り出して叫ぶ。けれど奇声と奇妙な踊りは止まらない。気のせいか村の上空で雲が渦巻き始めているように見える。いぃーやぁー!? 何か、何か兆しが! 本当に隕石落ちるのかはまだ半信半疑だが、確実に何かが起ころうとしている! 気がする!

「無駄だ! トランス状態の長様にオイラたちの声は届かない!」

 届かない! じゃねえよ! 慌てろ! 危機! 命のっ! てゆーか!
 
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