つよすぎてニューゲーム

□つよすぎてニューゲーム
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【これまでのあらすじ】

@俺、選ばれし子供として召喚される。
A俺、パートナーのアグモンと旅に出る。
B俺、アグモンとラスボス直前まで辿り着く。
C俺、ラスボス倒す前に別の世界に召喚される。
D俺、シャウトモンとパートナーになる。
E俺、シャウトモンと無双する。
F俺、シャウトモンと旅に出る。<New!
G俺、星と出会う。<New!


第四話『勇者、イン・ザ・ミッドナイトランド』


「スターモン?」

 旅の途中、助けた星が告げたその名を思わず眉をひそめて聞き返す。しかし当のスターモンは勿論、シャウトモンもそれを気にする様子はなかった。むしろ俺の反応に少し首を傾げ、

「どうかしたか?」

 なんて聞いてくる始末。

「ああ……いや、なんでもない」

 とだけ返し、俺もそれ以上は聞かないことにした。
 俺の知る同名のデジモンは、目の前のスターモンとは似ても似つかない。が、どうやらこれがこの世界における標準的な姿らしい。辿った進化の道程自体が異なるということか。
 シャウトモンやトループモンも向こうでは見たことがないし、バグラモンやネオヴァンデモンの名前も聞き覚えがない。だが、向こうのスターモンやヴァンデモン、七大魔王とまるで無関係とも思えない。
 二つの世界はどこかで繋がっているのか。異なる歴史を辿った平行世界、なんてものの存在をとあるデジモンから聞かされたこともあったが……いや、今は考えても仕方のないことか。
 今、俺が考えるべきことは他にある。

 このスターモン、話を聞けばルナーメアからやって来たのだという。
 国を覆う霧はネオヴァンデモンによる結界。光を通さず、方向感覚を狂わせる霧の結界によって国を守っているそうだ。専守防衛、それがルナーメアの、ネオヴァンデモンの基本戦略というわけだ。
 だが、その消極的な姿勢に異を唱えるものもいるらしい。つまりはそれが、ここにいるスターモン。この戦乱の世を正すため、悪逆の魔王バグラモンを討つため、同志を求めて彼は旅に出たのだという。出て早々に詰みそうだったが。

「もうすぐだぜ、兄貴、旦那!」

 俺たちの事情を話せば彼は快くルナーメアまでの案内役を買って出てくれた。スターモンに出会えなければ延々霧の中を迷っていたところだ。ちなみに呼び名については向こうが言い出したことである。
 スターモンに言われて進むその先へと目をやれば、そこにはただただ真っ黒な霧。そこが国境なのだろう、ある地点を境に自然のそれとは到底思えない深く濃い黒霧が立ち込める。

「俺っちから離れないよう気を付けてくれよな」
「ああ……しかし道なんてわかるのか、これ?」
「真っ直ぐ進めばいいだけだぜ。ルナーメアの民は迷わないようになってんだ」
「へえ……」

 ネオヴァンデモンの意思一つで迷わせるものを選べる、ということだろうか。まあ、国民まで迷ったら生活もままならないか。だが、その理屈でいくと……。

「どうかしたかい、旦那?」
「あ、いや……とにかく行ってみるか」
「おうよ、任せてくれ」

 張り切るスターモンを先頭に、俺たちは霧の中へと足を踏み入れる。そこは一寸先も見えない暗闇。唯一見えるのは淡く輝くスターモンだけ。不安を抱えながらもその後をついていく。
 そうして……しかし霧は、程なくして呆気なく晴れ、中世の欧州を思わせる街並みが俺たちの目の前に現れる。どうやら霧はドーム状に町の外側だけを覆っていたようだ。お陰で昼日中というに町は夜半の装い。空にはなぜか月が浮かぶが、あれも霧の中に作られたものだろう。

「ついたぜ。ようこそ、ルナーメアへ」
「おお、ほんとにすぐだったな、ダン」
「ん、ああ……」

 と、気のない返事をしてしまう俺にも構わず、そのままスターモンはネオヴァンデモンの屋敷へと俺たちを案内してくれる。
 心配は杞憂に終わったか。いや、あるいは、嬉しい誤算となってくれるかもしれないと、俺は微かな期待を抱く。





「いいだろう」
「え?」

 やって来たネオヴァンデモンの屋敷で、拍子抜けするほど簡単に謁見は叶い、駄目元だった協力要請に、ルナーメアの王はあっさりとそう答えてみせた。

「手を組むと言ったのだ、選ばれし子供よ」
「ほ、本当か? おい、やったな、ダン!」
「あ、ああ。だが、どうしてそんなすんなりと……」

 と問えば、ネオヴァンデモンは如何にも裏がありますという風に笑う。

「勿論ただでとは言わん。一つ、条件を付けさせてもらう」
「条件?」
「なに、見返りを求めようというわけではない。ただ、こちらも多くの民の命を預かる身でね。無謀な戦いに加わるわけにはいかない」
「それは、確かにそうだが……」
「必要なものは確実な勝算。それだけだよ」

 そう言って、ネオヴァンデモンは俺を指差す。射抜くようなその視線。民草を背負う王の、確かな誇りと信念がそこにはあった。

「ドルビックモン、スプラッシュモン、ザミエールモン、オレーグモン、グラビモン……彼ら全員の協力を取り付けたまえ。それが私の考える“確実な勝算”、君たちと手を組む最低条件だ」
「六勇士……全員と? おいおい、ダン、どうするんだ?」
「……わかった。いや、十分だ。感謝する」
「ふむ、話が早いな」
「そっちこそ」

 と返せばネオヴァンデモンはにやりと笑う。ふと、その視線をスターモンへと向ける。

「スターモン、君もついていくのだな」
「おうよ、止めたって無駄だぜ王様!」
「止めはしないさ。しっかりと役目を果たして来たまえ」
「え? あ、おう」

 言われてスターモンも少し呆気にとられる。
 王の方針に逆らって国を出たスターモンと、それに連れられて来た俺たち。霧の結界がネオヴァンデモンの意思一つで敵味方を区別するなら、そんな俺たちをすんなり通した時点で少しは話のわかるやつだろうと期待はしたが、まさかここまでとは。

「だが、軍人でもないスターモンだけというのも些か不安ではあるな」
「うええ!?」
「まあ、トループモンに負けてたしな」
「旦那ぁ!?」
「そこで、だ。信頼の証という意味でも、我が国の優秀な兵を君たちに同行させようと思う。生憎今は派兵中で不在ゆえ、後々合流する形となるが……如何かな?」
「願ってもない。助かる」
「では戻り次第、後を追わせよう」

 そう言ってネオヴァンデモンは横合いへ視線を向け、小さなベルを鳴らす。

「それと、これを持っていくといい」

 ベルに応えてやって来たのは黒衣の女性型デジモン。レディーデビモン、向こうでも見たことのあるデジモンだった。彼女は細いチェーンの着いた小さな金属プレートを俺たちに差し出す。

「これは?」
「“月光のタグ”だ。まあ、手形のようなものだな」
「ん? 通行手形みたいなことか?」
「そんなところだ。かさ張るものでもなし、持っていきたまえ」
「わかった、ありがたく貰っておく」

 ここに来るまでには見掛けなかったが、関所のような場所もあるのだろうか。まあ、よくはわからないが、くれると言うなら貰っておけばいい。他の六勇士がこれを知っていれば、ここで交わした約束の証明にもなるかもしれない。
 俺はタグを懐に仕舞い、レディーデビモンに軽く礼をする。

「さて、それで……次に向かう場所はもう決まっているのかな?」
「いや、とりあえずはここから近い国、と考えているが。シャウトモン、どこになる?」
「ああ、それなら“竜の国”だな」
「ふむ、“グリムロア”か。“火烈”のドルビックモンが治める国だな」

 如何にも好戦的ですってワードの羅列だな。後回しのほうがいいだろうか、なんて思いもよぎるが、しかしネオヴァンデモンは肯定するように頷いてみせた。

「悪くない。あるいは私より話が早いかもしれんぞ」
「うん? どういうことだ?」

 問えばネオヴァンデモンはにやりと笑い、

「行けばわかるさ」

 とだけ返す。
 これ以上は自力で頑張ってこい、ということか。

「まあいい、なら次はグリムロアだ。スターモン、これからよろしくな」
「おうよ、旦那。シャウトモンの兄貴もよろしくな!」
「ああ、頼むぜ」

 そう言って俺たちは互いの拳をがつんと打ち合わせる。先はまだまだ長いが、確かな道は一つ見えた。仲間も得た。救世の旅路は、ここから本当の始まりを迎えるのだった。


【続く】
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