□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-2 明日の追風(1/5)

 
 悪夢だ。そう零して、肩を落とす。いえーい、と無邪気にはしゃぐインプモンに溜息を吐いて、くすりと笑う。まったく、仕様がない子ね、なんて。

「ヒぃ〜ナぁ〜!」

 やれやれと肩をすくめていると、不意にそう叫びながらマリーが私に飛び付く。数歩ふらついて、抱きすがるマリーに思わず頓狂な声を上げる。

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」
「う〜、わがんない〜」

 言ったマリーの顔は涙でくしゃくしゃ。何でこんなことで感極まっているんだこの子は。結局今まで通りなだけでしょうにと、呆れながらマリーの頭をぽんと叩いて――けれど、

「これからも宜しくね、マリー」

 気付けば笑う。嗚呼、自分で思う以上に私は、この子たちを好きになっていたのかもしれない。よしよしと、頭を撫でれば抱きしめられる。つむじの辺りがむずむずした。ただ、悪くない感覚ではあった。

「さあ祝うぞ。酒盛りだ。てめえら騒げ!」

 インプモンが叫べばうおおと野太い声が広くはない地下室に次々となだれ込む。というかどこから湧いた。

「こら、怪我人だらけでしょう。大人しくしてなさい。大体私たち未成年だし」
「ははは、構うな構うな! 無礼講だ!」
「だからそういう問題じゃないっての」

 段々調子に乗り始めるインプモンの頭に手刀を見舞い、不意の一撃に悶えるその姿を尻目に振り返る。と、

「ヒナタ様、二人は某が」

 いつもの調子で跪くレイヴモンに、別の意味で溜息が漏れた。

「そうね、お願い」
「はっ」

 灯士郎に肩を貸し、ミラージュガオガモンを促して地下室を後にする。ある意味でマイペースというか。レイヴモンたちの後ろ姿を見送って、私は息を吐く。

 さて、と。
 さあ、ああは言ったものの、これからどうしたものだろうか。開き直ればある意味で一番の近道を進めている気もするけれど。ジェネラル、か。“声”が聞こえるだけの私に何を期待しているかは知らないが……いいや、もう止そう。
 うだうだ言っても始まらない。何をできないかより、何ができるかを考えよう。私は、彼らとともに戦うと、そう決めたのだから。元の世界に帰るため、この愛すべきならずものたちと、頼りないちんちくりんのために。世界を救う、なんて大袈裟なことは言えないけれど、友達の力にくらいはなってあげたいから。

 そこまで考えて、また笑う。本当に――とんだ悪夢ね。
 
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