□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-1 星々の願い(1/6)

 
 風が鳴く。地が揺れる。轟く怒号が空を貫き、踏み鳴らす足音が荒野を駆ける。
 雄叫び。剣戟。砲撃。悲鳴と、そして鬨の声。立ち上る黒煙の足元で咆哮がこだまする。

「終わったようだね」
「みたいね」

 遠く戦場を見渡して、書の賢者・ワイズモンの言葉に気のない返事を放る。そんな私に賢者はふむと唸り、

「元気がないね。どこか具合でも?」

 そう、首を傾げてみせる。わざと言っているのだろうか。そんなもの、いまだ“ここ”にいること以外に原因なんてあるわけがない。あえて病名を言うなら、

「ホームシックとかぁ? 案外可愛いとこあるのね」

 横からしゃしゃり出て見透かしたように茶化すマリーに、私は大きく溜息を吐く。

 あの後――レディーデビモンの先導でどうにかこうにかセフィロトモンを脱出し、近隣の小世界まで辿り着いた私たちは、いまだこうして行動をともにしている。
 いや、それ自体に不満があるわけではない。マリーたちのことも、ゼブルナイツ改めゼブブナイツの面々も、仲間として付き合ってみれば思いの外好意を抱いている自分がいる。ここは、嫌いじゃない。
 不満と言えばまあ、帰る手掛かりがないに等しいことと、もう一つ。

「制圧完了致しました、ジェネラル」

 空より飛来し宙に跪く、闇色の竜にまた溜息を吐く。不満と言えばそう、なぜだか私がジェネラルなどと呼ばれてゼブブナイツの指揮官に祭り上げられているということ。

「ねえ、何度も言うようだけれど……私、ジェネラルじゃないから」

 もう何度目になるかも分からない、そんな私の言葉に、闇の竜・ダークドラモンが返すのもやはりいつもと同じ言葉。

「おお、またご謙遜を。我らを導く勝利の女神、もといジェネラルが貴女様以外の誰に務まりましょう」

 大袈裟に肩をすくめて首を振る。毎度ながら馬鹿にしているのか。いや、してるなこれは。そうに違いない。嗚呼、ひっぱたきたい! と、はっきり顔に殴り書きして口をへの字に曲げる。ダークドラモンはやれやれとまた首を振って、

「我らが王の命運を握るその御身、ぞんざいに扱おうなど毛頭……ただ、手にした力の価値はそろそろご理解いただきたいものですなあ、姫?」
「姫はもっとやめて」

 言い分は解る。解るけれど。くうと唸ってうなだれる。それもこれもすべては――

「おーおー、今度は何の騒ぎだ、ヒナタ?」
 
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