□第十五夜 極彩のネビュラ
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15-3 子羊の残夢(1/4)

 
「おの……れ……!」

 掠れたノイズが言葉に変わる。吐き出すのは変わらぬ憎悪。音を追って虚空を見遣る。目を細めてしばらくを置いて、ようやく見付けたのは悪夢。その、残滓だった。

「悪いな」

 いまだ消えぬ悪夢を見上げて、翡眼の王が零す。先と同じ言葉はしかし、私へ向けられたものではなかった。

「最後に少し、気が散った」

 はたと、悪夢の残滓が浮かぶ空のその果てを仰いで、私は目を見開く。言葉の意味を理解して、鼓動が再び高鳴る。

「虫けらが……所詮、貴様など……!」

 自らの置かれた状況をまるで理解せず、見苦しい恨み言を並べ立てる。悪夢の魔王の成れの果ては、ただ憐れに世界の淵にしがみつく。

「止めとけ。それより折角拾った命だ。最期くらい、自分で選んでみろ」
「何を……ふざけたことを!? 最期、など……!」

 喚き散らす悪夢に、私はゆっくりと首を振る。

「いいえ、最期よ。あなたは直に消える」
「な……にを」

 生き延びたのではない。死に損なったのだ。情けではない。躊躇いでもない。先の言葉の通り、ただ偶然に。残ったのは、火の点いた燃えカスに過ぎないのだ。

「詰めが甘いんだから」
「耳が痛いな」

 だから謝ったろうと、後ろ頭を掻く。もはや自分に危機感も敵意も抱いていないそんな私たちに、顔のない悪夢が訝しげに眉をひそめた気がした。

「まあ、それはそうとして……ところでそこ、危ねえぞ」

 翡眼の王が言えば、悪夢はただ呆けるように。何が、と問う間もなく、選択肢を失くしてしまう。
 閃いたのは雷。天空を翔ける小さき竜の如く、悪夢の残滓を瞬く間に絡めて捕らえる。
 訳も分からず頓狂な声を上げる。魔王としての威厳など疾うにない。そう、ここにいるのはただの――

「ご苦労様でした、サタナエル。夜に迷える子羊よ」

 天を仰ぐ。朝焼けを背に舞う姿は、あるいは神そのものにさえ見えた。

「なぜ……なぜ貴様がここにいる!?」

 白妙を纏う神の子羊たちが王。アポカリプス・チャイルドの、盟主たる神託の聖竜。悲鳴のように問えば、穏やかな笑みを浮かべて聖竜は天より来たる。悪夢の魔王に囚われていた憐れな傀儡の王――には、とても見えなかった。
 理解、したのだろう。渇いた笑いが零れて落ちる。

「く、くくく……そうか、すべてが貴様の筋書きか。なあ……ホーリードラモン!?」
 
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