□第十五夜 極彩のネビュラ
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15-4 虫螻の騎士(1/6)

 
 遠く、空の軋みが聞こえた気がした。それは果てにある闇の中で叫ぶ小さな光の声か。あるいはただ、より深き暗黒の誘いか。答えは、辿り着いたものにしか知り得ない。

「よう、リリスモン。つまり、何だ」

 翡眼の王が呆れたように後ろ頭を掻いて溜息を吐く。冷めた目で聖竜から女帝へ視線を移す。

「そいつはこう言ってるわけか。“今の世界が気に入らねえから、一遍ぶっ壊して一からやり直す”って」
「どうやらそのようじゃのう」

 くすくすと笑う。この上なく馬鹿げた話だと、惑い迷える憐れな子羊の王を見る。けれど、当のホーリードラモンはそれでもなお、闇を越えた先には光があると、絶望の先の希望を信じて、その眼差しは僅かも揺らぐことなどない。

「これがホーリードラモンか。とんだ迷君に躍らされたものだな」

 なんて、皮肉と自嘲の混じる物言いはダークドラモン。はん、と鼻を鳴らしてカオスドラモンが忌ま忌ましげに目を細め、メタルシードラモンは無言で首を振る。
 怒りは尤も。いみじくも悪夢の魔王の言葉通り。“汚れた世界の浄化”と、そんな空言がよもやそのまま事実だったなど、当のベリアルヴァンデモンさえ夢にも思わなかっただろう。

「どちらにせよ」

 炎が行き交うような怒りの眼差しの中、誰よりも静かな声が冷たく響く。黒鉄を打ち鳴らし、その眼光を鋭く研ぎ澄ます。砲口が真っ直ぐに聖竜を捉えた。眼に点る戦意の火が弾けて爆ぜる。

「敵だってことに変わりはねえ。なら、戦うだけだ」

 そんな言葉に迷いはない。立ちはだかるのが何であろうと関係はないと、自由の翼を高らかに広げて、翡眼の王は瞳を燃やす。

 小さく微笑が零れた。尤もだと、ダークドラモンが肩をすくめる。聖竜の目指す場所が何処であれ、自らの目指す場所が変わるわけでもない。敵であると、それだけ判れば十分だ。
 昂る。漲る。迸る。怒火を背に受け牙を打つ。波動渦巻く砲を手に、戦いは終わってなどいないのだと、子羊の王を睨み据える。

「足踏みをするものに、進める道などないのです」
「地獄に行きたきゃ独りで行きやがれって、言ってんだよ……!」

 子羊の王が息を吐き、虫螻の王が眼を見開く。
 風よ荒ぶれと雄叫びを上げる。天よ裂けろと眼差しを射る。黒の波動が昇り立ち、白の焔が降り注ぐ。黒白が天地を染め上げて、轟音と爆風が飢えたケダモノの如く荒れ狂う。
 
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