□第十四夜 翠星のアジュール
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14-4 遊星の志士(1/4)

 
 流星にも似た波動がほとばしる。迫る魔獣を一撃の元に降し、塵と消える間際の屍を足場に跳躍する。一、二……三匹か。魔獣の群れの奥にその操手たるベリアルヴァンデモンを捉え、翼を寝かせて加速する。

 一匹目の魔獣が腕をかざす。振り下ろす間も与えずその胸を撃ち抜き、波動が通り過ぎた風穴を追従するように翔ける。
 目を閉じ、耳を澄ます。一匹目の屍と波動の軌跡に、敵を見失ったのはお互い様。だが――嗚呼、見えずとも聞こえている。その耳障りな音は。聴覚を頼りに狙いを定め、第二撃を放つ。波動は寸分違わず二匹目のコアを穿ち、断末魔さえも虚空に散らす。
 後、一匹……!
 風を掻く。舞うように天を駆る。目前であぎとを開く魔獣にも臆することなく距離を詰め、その鼻を踏みしだく。身を翻し、魔獣の頭上へと跳ぶ。がしゃりと、重々しく黒鉄を鳴らし、魔獣の頭頂部へ砲口を突き付ける。瞬間、黒の波動が魔獣を縦に貫く。

「よう、久しいな」
「くくく、待ちくたびれたよ」

 三匹目の魔獣が粒子と消えて、互いを隔てるものはもはや何もない。魔王と魔王は氷天に視線を交わし、そうして刹那、烈火の如き闘志を胸に雄叫びを上げる。

 翡眼の魔王が波動を放ち、悪夢の魔王が業火を撃つ。それはまるで宵闇と黄昏がただ一つの天を奪い合うように。共に地へと墜ちゆくように。互いが互いを喰い潰し、風の軋みだけを残して虚ろへと消失する。
 閃光。と呼ぶには余りにも暗い火花が弾けて散る。視界を遮る黒炎の暗幕。翡眼の王は構わず空を走り、再び砲を構える間も惜しいとばかりに左手の爪を振るう。薄墨色の炎を纏う爪の一撃が波動の余韻を引き裂いて、そのままベリアルヴァンデモンへと迫る。

 時を刻む針の間隙。僅か一歩にも満たぬ互いの距離。薄く引き延ばされた一瞬の中で、どれほどの思考が巡り、どれほどの視線を交わしただろう。
 タイムリミットは間近。魔獣もすべてを倒しきったわけではない。この機を逃せば再びベリアルヴァンデモンは遠退いてしまうだろう。再び手が届くとも知れぬほどに遠く。
 ここで……!
 凍る針が雪解けに時を刻む。夜闇の炎がかざすベリアルヴァンデモンの腕を引き裂いて、その首へ。牙を噛む。左腕に神経と血流と筋繊維のすべてをかき集めるように――五指を振るい抜く。
 汚泥を掻くような感触だけを残して、受肉した悪夢のその身はただ、静かに散る。
 
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