□第十二夜 碧落のプラネット
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12-4 日陰の物語(1/4)
「ねえ、何か見える?」
疾走するベヒーモスの上で、風の音に紛れぬようにと声を張る。先端部に陣取るインプモンは、問われて振り向き肩をすくめる。さっぱりです、とばかり。
「マリー、本当にいるの?」
今度は後ろを振り返る。ちょうど私と背中合わせの形で、後部座席のマリーは空を仰ぎながらどこか投げやりに、
「多分」
なんて、覇気のない声で答える。はあ、と溜息を一つ。続けた言葉も力弱い。
「“鍵”は外に持ち出せない、って、言ってたと思うんだけど」
セフィロトモンの各エリア間、あるいは内外を繋ぐ扉、その“鍵”はこの氷原のどこかにあると、マリーのあやふやな記憶を信じてこうして走り回っているわけだけれども。
「デジモンが持ってる、と思う。他のエリアじゃそうしてたから」
外には持ち出せない鍵を所持しているデジモン。つまりは、水の森が飲み込まれる以前からここにいたもの。水の森には、いなかったものがそうだということ。しかし……、
「当てはないに等しいな」
ぽつりと零したインプモンの言葉はもっともだ。分かっている。分かっているとも。
「言わないで。くじけそうになる」
「……そうだな。悪かった」
そうして三人同時に、深く深く溜息を吐く。果てしない氷原を見渡して、しばし。かくりとうなだれる。
そんな時だった。風の唸りを切り裂くように、いやにはっきりとしたその声が私たちの耳元で冷たく笑ったのは。
瞬間、背筋に走る悪寒。早鐘のように心臓が高鳴る。
「止めろ!」
インプモンが叫んで、ほぼ同時にベヒーモスはタイヤを横這いに滑らせながら急停止する。思わずつんのめり、ハンドルにしがみついて顔も上げられない私を余所に、ベヒーモスから飛び降りたインプモンが虚空を睨みつけて指先に炎を点す。数秒遅れて私も続く。
「誰だ」
声はすれども姿の見えぬ敵に問う。けれど応える声はない。静寂の中でマリーが誰にともなく呟いた。
「今のは――」
と、言葉はそこで途切れ、代わりに小さな悲鳴が漏れる。慌てて振り返る私とインプモンが目にしたのは、音もなく現れた追っ手と、首を絞められ喘ぐマリーの姿だった。
「マリー!」
「探したよ、虫けら諸君。さあ、返してもらうぞ……!」
言葉には静かな怒り。唇だけの顔を歪ませて、追っ手は――鏡の貴人・メルキューレモンは吠える。