□第十二夜 碧落のプラネット
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12-3 傀儡の物語(1/2)

 
 荒れ果てた地はまるで星でも落ちたよう。追憶に浸る闇の竜がそっと瞼を閉じた頃、戦場を見下ろす遠く高き地で彼は歯牙を軋ませる。闇の竜の存命に、ではない。この小さき世界を掌握する彼にとって、生存者を見付けることも始末することも造作もないことだが、そんなことは、今はどうでもよかった。死に損ないも屍も、等しく敗者に過ぎないのだから。
 問題は、そんな瑣末なところにはない。なぜだ、と。闇の中で誰にともなく問うも、答えるものはいない。傍に控える白妙の天使・サタナエルは自我なき傀儡に過ぎず、多くの元仲間たちは眼下の戦場で吹き飛ばしてやった。いや、誰がこの場にいようと答えられるはずもないのだが。

 戦場の氷原へ目を向ける。虫けらの生き死になど誤差に過ぎない。だが、誤差では済まない大きな誤算があった。
 いや、誤算と呼ぶべきかも定かではない。誰が自分の邪魔をしたのか、それさえいまだ推測の域を出ないのだ。

 こんな真似ができるのは、間違いなくあの場にいた誰か。知覚端末であったブラックセラフィモンを自爆させたことで、戦場から目を離さざるをえなくなったあの瞬間。セフィロトモンからのスキャンによって再び戦況を把握するまでの僅かな空白の時間。その数秒に、事は起きたのだ。
 勝利を確信していたこの私の手から、戦利品だけを奪い去る、そんなふざけた悪あがき。

 誰だ。どこだ。どこにいる……!

 爆発の瞬間に観測した空間の揺らぎ。セフィロトモン内部で行うエリア間の転移に似たそれ。恐らくは現在地と遠隔地を繋ぐ限定的なゲートを開く、テレポートのような能力。
 あの瞬間、あの場から、爆心地から逃げ延びたのは――

「ミツケタ……!」

 会話自体を想定せず、ろくな言語能力を備えていなかったがゆえの不格好な機械音声で、激情と歓喜の混じる笑みを漏らす。

 そうか……お前だったか!

 目標を捕捉し、同時、闇の中に一つのアーティファクトが浮かび上がる。鏡の貴人に似たそれは、自爆の寸前に回収した鋼のヒューマンスピリット。幾ら屍を操れるとはいえ、データそのものを消し飛ばすあの自爆技に巻き込まれてはそれも叶わない。自分にとっても切り札の一つであったセラフィモンを失った今、使える手駒は限られているが――いいや、十分だ。
 捕捉した座標へ向けてゲートを開く。

 さあ、もう逃げ場はないぞ。虫けらども……!
 
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