□第十一夜 紅蓮のコキュートス
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11-2 青銅の反逆(1/4)
値踏みするように氷柱の魔王を見据え、堕天使は冷たく笑う。鉄仮面の奥で舌なめずりの音が聞こえた気がした。
堕天使が、メルキューレモンがここへやって来た理由を私たちは完全に理解する。インプモンが激昂し、私は驚愕する。目的は確かに魔王の肉体。けれど、奴にとって生け捕りである必要はないのだ。屍だけあればいい。目前に在る、セラフィモンのように……!
ぎぎぎ、と、自らの牙を噛み砕かんばかりに軋ませて、インプモンは指先に炎を点す。堕天使はそれを鼻で笑い、肩を竦める。
「おやおや。学習能力というものが無いのかな?」
そんな嘲笑に、インプモンは堕天使の手に残る僅かな焦げ跡を一瞥。舌打ちし、その小さな、余りにも小さくか細くなってしまった己が手に視線を落とす。――そうして、何かに気付いたようにはっとする。
「さて、ではそろそろ頂くとしようか。抵抗、逃走、降伏――まあ、最期の足掻き方くらいは自由に選び給え」
結果は同じだがな、と。鉄仮面が笑みの形に歪むと錯覚する程に、侮蔑に満ちた冷笑を漏らし、堕天使は静かに飛翔する。インプモンの些細な変化など、気にも留めず。
「レイヴモン、行け! 不本意だが援護してやる!」
冷たい闇に浮かぶ堕天使を見上げ、その両手に六つの炎を点してインプモンが叫ぶ。一瞬の躊躇、けれど直ぐさまレイヴモンは跳躍する。その様に、堕天使がまた笑う。
「ふふ……!」
跳躍から秒にも満たぬ間を置いて、レイヴモンの爪が堕天使に肉薄する。が、直前までまるで構えもしなかった堕天使の手刀が、それをあっさりと受け流す。火花が散って、真っ直ぐに堕天使へ向かっていたレイヴモンの体が、弾かれるように横合いへ逸れる。
そして、射線が開く。
今の今までレイヴモンのいた空間を貫いて、インプモンの放った炎の弾が堕天使へ迫る。僅かでもタイミングが狂えば誤射も有り得るぎりぎりの連携。レイヴモンから後の先を取る程の反応速度をもってしても回避は難しいが――
「これが援護とやらかい?」
無造作にかざした手刀とは逆の手に二つ。続く四つが堕天使の鎧に着弾する。火の粉が舞って、けれどそれだけ。回避は、できなかったのではない。必要なかったのだ。
堕天使が嘲笑い、レイヴモンが追撃に備えるべく構え直し、そしてインプモンは――舐めるなとばかりに息を吐く。
「いいや、ここからだ」