□第十一夜 紅蓮のコキュートス
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11-3 白銀の葬送(1/5)
「どいつもこいつも、当人ほったらかしで勝手なこと言いやがって……!」
大きな溜息を吐いて、苛立ちを隠しもしないインプモンのそんな言葉は、当然と言えば当然。勝手に命を狙われて利用されそうになって、勝手に期待されて失望されて。勝手に巻き込まれた私ですらさすがに多少の同情を禁じ得ない。こういう時に言うべき言葉は、そう――まさに悪夢だ。
「アポカリプス・チャイルドが俺に何をしたかろうが」
インプモンは堕天使をぎろりと睨みつける。目は、完全に据わっていた。そうして今度は視線もくれてやらず、
「ゼブルナイツが俺に何をさせたかろうが」
その目の奥に強く強く光を点して、言い放つ様は誇り高く、何者にも囚われぬ孤高の魔王そのものだった。
「そんなもん知ったことか! 俺は俺の生きたいように生きて、戦って、くたばるだけだ!」
小さな体で、声の限りを振り絞るような叫び。我が身を搦め捕る、蜘蛛の糸が如き不条理への怒り。堕天使がやれやれと肩をすくめ、獣騎士とレイヴモンは沈黙し、私もまた、相も変わらず言葉が見付からない。
嗚呼、これがインプモンの悪夢か。訳も解らぬままに降り懸かった災い、理不尽な暴力と敵意。それはまるで……本当に今更ではあるのだけれど、まるで、私と同じ。
インプモン、と。頭の中の考えをまとめもせずに、ふと名前を呼ぶ。そんな時、ちょうど遮るように堕天使が嘲笑を漏らした。言い損なった言葉が何であったかは、私にも分からない。
「ふっ、ふふ。ご立派なことだ。だが、忘れているのではないかな」
「ああ?」
「“弱肉強食”こそが、この無秩序なる世界の唯一にして絶対の掟であることを、だよ。弱肉と成り果てた暴食の魔王殿?」
そう、鉄仮面の奥でぎぎぎと口端を醜悪に歪ませる。その悔しさが、苦しみが、憤りが、蜜の味だとでも言わんばかりに。
「やはり、私の目にも狂いはなかったようだ」
獣騎士が小さく言った。
「ほう、今更それはどんな言い訳かな。裏切りの騎士よ」
「下らぬ弁明などする気もない。私がここへ来た目的はただ、一つ」
騎士なる獣がその目に野生の火を点す。そうして、雄々しく吠える。
「貴様を止めることだ……メルキューレモン!」
そんな咆哮を引き金に、堕天使から漏れる悪意が殺意に変わる。獣騎士は刃を構え直し――けれどその、間際。
「レイヴモン!」