□第十夜 蒼天のコマンドメンツ
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10-3 蒼天の鉄槌(1/4)

 
 天に浮かぶ眼が瞬く。淡く淡く、黄昏の星に似たほのかな輝き。眼より放射状に広がる光は、空の天蓋に電子基盤を思わせる幾何学模様を描きながら地上へと降りてゆく。
 空が凍てついたように風が凪ぐ。地平線に降りた幾何学模様の光の筋が瞬く間に大地を撫でて、かと思えば刹那に光は消え失せる。

「今の……何?」
「始まったようだ」

 私が問えば答えたのは闇色の怪鳥・ベルグモン。

「始まった?」

 セフィロトモンを中心に一瞬、空や地面に不思議な模様が浮かび上がって――ただそれだけ。見たところ、どこもかしこもこれといった変化は見られないけれど。
 そう、私が問い返したその直後。ベルグモンの返答を待たずして激しい震動が私たちを襲う。空を飛ぶベルグモンの背の上にさえ伝わるそれは地震などではなく、強風の類でもない。小世界そのものが、空間そのものが揺れていたのだ。

「セフィロトモンによる小世界への浸蝕だ」

 遅れてベルグモンが言う。震動の中で身を屈めながら私は空を見る。セフィロトモンの無機質な体表が陽炎のように揺らぎながら、ゆっくりと下降を始めていた。「おいおい」と溜息混じりにインプモンが零す。

「まさか捕縛って、小世界ごと取り込むつもりか……?」
「ああ、そのまさかだ」

 インプモンの問いに、答えるベルグモンは至って平静だった。
 この小世界そのものを、空も大地も湖ももろともに、仮にも一個の生き物がその体内に呑み込もうというのか。デジモンという存在に触れてまだ数日の私にも解る、その規格外の化け物っぷり。知らず、嫌な汗が頬を伝う。

「しかしこの進行速度……」

 そんな折、私の腕の中で抱えていた魔術書から賢者・ワイズモンがふむと声を上げる。眉をひそめながらインプモンも相槌を打ち、賢者の言葉を継ぐようにベルグモンに問う。

「間に合うのか?」

 と、先程より幾分近付いたセフィロトモンを見上げながらベルグモンの背を小突く。そんなインプモンにベルグモンは至極冷静に、

「この小世界からの脱出、というなら諦めろ」

 そんな返答には思わず間抜けな声が漏れる。構わずベルグモンは続けた。

「脱出するのは“セフィロトモンの中から”だ。心配するな、手は打ってある」

 そう言い放つ声に迷いはまるで無い。先程言っていたな。これが無茶とやらか。つまり今より目指すのは、敵の腹の中……!
 
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