□第十夜 蒼天のコマンドメンツ
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10-2 黄昏の天使(1/4)

 
 水流を削岩機のように貫いて、それは水上へと跳躍する。いや、流線型の体で気流を掻き分け、放射状に生えた触手をスクリューの如く回転させて揚力を得るその様は、もはや飛翔というべきだろうか。水中より踊り出たその飛行体は、空中で次第に回転を緩やかにして、戦場の空に浮遊する。
 淡い青と白に彩られた体と触手はのっぺりとして、その容姿を一言で言い表すならそう――巨大な“イカ”そのものだった。

 巨大イカは宙で反転し、逆立ちするような格好になる。と、その途端、触手の付け根から人間の女性に似た異形の怪人が姿を現す。その肌は青白く、脇腹にはエラのようなものが見て取れる。さながら半魚人といったところ。下腹部より下が巨大イカと一体化した姿は、人魚の変わり種と言えなくもないだろうか。
 名を――“水のカルマーラモン”。水の闘士・ラーナモンのビーストスピリットである。

「はぁ、どこが楽勝よ……!」

 上空を一瞥して毒づいて、この作戦の立案者の顔を思い浮かべ舌を打つ。そうして今し方一時離脱した水中の戦場へ目を落とし、今度は大きな溜息を吐く。
 メタルシードラモン率いるゼブルナイツ海軍、それは、聞かされていたより遥かに手強い精鋭揃いだった。まだ手傷は負っていないけれど、今のこの消耗を考えればそれも時間の問題か。先程駆け付けた援軍もはっきり言って“いい勝負”というくらい。

 一体あの怪人鏡男は何を見て楽勝などとのたまったのか。そもそもなぜ女の子を戦場に送り出しておいて男連中は高見の見物をしてやがるのか。泳げないし飛べないのは知っているけれども!

 そんな不満を腹の奥から喉元まで押し上げるように、胸を反らして頬を膨らませる。そうして眼下の湖を、逆巻く水面を見据える。瞬間、湖より竜が飛び出す。カルマーラモンは溜まった鬱憤ごと吐き出すように、口から毒々しい溶解液を噴射して竜を――メタルシードラモンを迎え撃つ。
 けれど超金属の鎧を纏う竜はそんなものお構いなし。溶解液を浴びながらもカルマーラモンを貫かんと額の刃を突き出す。

「ああ〜、もう!」

 一度だけ叫ぶとカルマーラモンは再度巨大イカに埋まって、回転しながら空を駆り竜の刃をかわす。
 ちょうど、そんな時だった。彼女にこんな戦いをさせた張本人が、どこからともなく語りかけてきたのは。

「ご苦労様、カルマーラモン。ふふ、もう十分だよ」
 
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