□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-2 金生の水軍(4/4)

 
 水面が逆立ち、影がうごめく。ラーナモンとメタルシードラモンが水中へ姿を消して僅か数秒。再び水上へ現れたそれはしかし、そのどちらとも違う異形。白蛇に似た何か。その一部が水上でアーチを描く。波紋が揺れ、波風が散って、波濤が逆巻く。アーチが鞭のようにしなり、その先端があらわになる。

 それは触手。白くのっぺりとした、巨木のように長大な触手の先にゼブルナイツ海軍の兵が搦め捕られ、苦しみに呻く。ぎぎ、と筋肉と骨子が一際大きく軋む。そうしてもはや呻きも漏れなくなった兵を無造作に放り出し、触手は水面を叩き付けるようにして再び潜行する。
 海竜がその残像を薙いだのは、僅か一瞬の後。
 ぎりと牙を鳴らし、海竜もまた水中へ取って返す。直後にその場から一直線に次々と水面が爆ぜ、立ち上る水柱とともに海軍の兵たちが水中から弾き出される。海竜の攻撃をかわしつつ着実に兵力を削ぐ、その手際は当のメタルシードラモンをして怒りの中に思わず感心の念さえ混じるほど。遊泳速度一つとっても、海で随一を自負する海竜と少なくとも同等。いや、ともするとそれ以上か。

 縮まらぬ彼我の距離に苛立ちながらも海竜は触手の主を追う。ただ、その位置だけは音波のソナーに頼るまでもなく容易に捉えられた。触手の主が通り過ぎたその後には水が渦を巻いていたのだ。恐らくはドリルのように水圧をえぐり貫いて進んでいるのだろう。海竜は音波を信号に、配下の兵と連携して攻撃を仕掛けるも、攻撃と防御を兼ね備えたその特異な遊泳方法の前にはいたずらに兵を浪費するだけにしかならない。

 触手の主は潜行と浮上を繰り返しなおも次々と兵力を削いでいく。海軍は拠点防衛の要だ。それが僅か一騎にこうも掻き乱されようとは。と、海竜が海軍の手の回らなくなった水上の戦況を憂いた、正にそんな時だった。戦場の上空に浮かぶ“生命の木”より、それが現れたのは。

 ゼブルナイツ海軍を水中に引き付け、陸空軍を防衛のみに注力させる。そうして邪魔物を排除した後、悠々と“生命の木”より降下を始めるのは、アポカリプス・チャイルドの更なる援軍だった。守ることで手一杯の陸空軍にそれを止める術はない。触手の主で手一杯の海軍がそれに気付いた頃には疾うに手遅れ。
 水中戦に特化したと見られる聖獣部隊の追加戦力とともに、アポカリプス・チャイルドのもう一つの戦力――天使たちが、舞い降りる。
 
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