□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-2 金生の水軍(2/4)

 
 ぱちん、と彼女が指を鳴らすと、途端に大竜巻の一部が弾け飛ぶ。激流が中程で穿たれて、不自然に開いた穴の中には幻獣の姿。すぐさま幻獣は翼を広げてその場から離脱する。直後に穴は消え、捉えたはずの標的を失った竜巻が、虚しく空へと立ち昇る。

「今のは……」

 幻獣は辺りを見渡す。そうして眼下にその小さな姿を見付け、理解する。その真横で幻獣を取り逃がした竜巻が次第に収縮し、やがて霧消する。

 飛沫散る中、空より舞い降りたそれは湖へと“降り立つ”。水面の上に、まるでそれが当たり前であるかのように佇んで、そっと、片腕を上げる。
 周囲のデジモンたちに比べ余りにも小さなその姿。身の丈も、その体つきも顔立ちもまるで人間の少女のよう。けれど人ならざる翡翠の肌に、頭部や腕は水棲生物を思わせる青の流線型。人外の少女は顔の高さまで上げた手、その指を再び打ち鳴らす。

 一拍の静寂。そして水面が爆ぜる。激しい水飛沫と、次いで水中から次々に飛び出す、否、弾き出される、長蛇に似た碧の竜。数にして十と少し。それは先の氷の矢の射手、ゼブルナイツ海軍の兵士たち。

「邪魔しないの。海は苦手なんだから、あの子たち」

 青の少女はおどけるように、立てた一本指をちっちと揺らす。その足元で水面に影が揺らめく。小さな影は瞬く間に大きくなって、

「どーしても、って言うならぁ……」

 そう言って少女が無造作に水面から跳躍した、その直後。今の今まで少女のいた場所を、巨大なあぎとが一瞬に飲み込む。少女は宙でくるりと反転し、その姿を視認する。少女を食い殺さんと水中から襲い掛かった金のあぎとの海の竜。それは、ゼブルナイツ三将軍の一角・メタルシードラモン。静かな殺意を燃やす海竜に、少女が叫ぶ。

「だったらこのあたし! “水のラーナモン”が遊んであげる!」

 そう、青の少女――古の英雄のスピリットを継ぐ者、十闘士が一人、水の闘士・ラーナモンは高らかに名乗りを上げる。と同時に右腕を海竜に向けて突き出す。“水”の二つ名は王なる者の証。その意に応え、湖がうねる。

 けれどそんなラーナモンの姿を横目で捉え、海竜は水上に飛び出した勢いそのままに、長い体で弧を描いて即座に身を翻す。再びそのあぎとがラーナモンへと迫る。ラーナモンもまた怯むことはなく、

「湖の藻屑になんなさい!」

 そして二人の水の王が、激突する。
 
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