□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-2 金生の水軍(1/4)

 
「隊列を乱すな! 制圧するぞ!」

 幻獣・グリフォモンの号令に、エルドラディモンを包囲する聖獣部隊が砲撃の構えを取る。いまだ空中でクロスモンに追い縋る暴竜・カオスドラモンを横目に。その特攻には驚かされたが、それ自体は好機に外ならない、と。ダークドラモンがミラージュガオガモンに抑えられ、暴竜が自ら飛び出した今、エルドラディモンの守りは指揮官不在の陸軍のみ。

「構えっ!」

 規律正しい編隊を組み、聖獣部隊は各々の武器を構えて狙いを定める。――そんな光景を、暴竜に陣形を崩されたが故に客観視できたクロスモンは、ようやくその違和感に気付く。
 何故こうも容易く包囲できたのか。簡単だ。“奴ら”が攻撃の手を緩めたからだ。

「待て、グリフォ――」
「撃てえぇーーー!」

 クロスモンの制止は、ほんの一歩遅く。幻獣の号令がその引き金を引く。

 クロスモンたちとは別ルートからこの小世界に進行する手筈であったグリフォモン指揮の聖獣部隊。それを見越したゼブルナイツの別動隊により足止めを食らい、遅れてやって来た彼らは先の奇襲を見ていない。到着と同時に戦闘となり、それを聞かされる猶予もなかったのだ。いや、そもそも目の前で交戦していた敵の存在など、わざわざ伝えるまでもないこと。
 けれど、智将はそんな戦場の混乱に乗じ、自分たちの存在を秘したのだ。一時とはいえ守りを手薄にしてまで。肉を切らせて、骨を断つがため。

 一斉に放たれる聖獣部隊の砲撃。同時にそれを真下から迎撃するのは氷の矢。と、水面を裂いて、再び湖が逆巻く。

「メタルシードラモン!?」

 グリフォモンがその存在に気付いた時、そこは既に大竜巻の渦中。
 不覚、としか言いようがない。ゼブルナイツが空軍・陸軍・海軍の三軍団で構成されていることは知っていたはずなのに。海軍の存在を失念するなど。足止めのために別動隊を捨て駒にする非道、暴竜の挑発にまんまと乗せられ冷静さを欠いたのだ。あるいはそれすらも計算の内か。恐るべきは思い込みと偶然、この混乱を巧みに利用するその手腕。三将軍随一の切れ者とさえ評される“静かなる深海の智将”――メタルシードラモン。

 大竜巻の中で怒りと悔恨に顔を歪ませる幻獣。激流に軋む四肢。どうにか逃れようともがき、そんな時。

「あーあ。やっぱあたしがいないと駄目ね」

 溜息混じりに、彼女はそう言った。
 
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