□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-1 聖戦の真実(4/4)

 
「な……なに? どうしたの?」

 突然の轟音と震動。岩肌からぱらぱらと砂埃が舞う。私は岩壁に手をついて、岩の窪みの外へと目を遣る。視線の先でレイヴモンはただ一言。

「空を」

 そんな言葉に私は、断続的な地鳴りに足を取られながもよろよろと、覚束ない足取りで数歩を進んで、そうして絶句する。

「“生命の木”――アポカリプス・チャイルドの本拠地だ」

 そう語る賢者に私は、空を見上げたまま半ば呆然とその名を繰り返す。

「生命の……木?」
「通称、だがね。その真の名を……」

 空に鎮座する様はまるで、月でも落ちてきたかのよう。それはどこまでも巨大な球体。その表面は一部を除いてのっぺりと無機質で。どこをどう見ようがとても“木”などには見えない異形のそれを、賢者はこう呼んだ。

「“セフィロトモン”」

 と、どこか淡々とした口調で。
 無機質なその姿形の中にあって異彩を放つただ一点。ぎょろりと不気味に覗くその、巨大な目玉が私たちを値踏みするかのようにゆっくりと動く。
 私は思わず半歩後退り、か細く言葉にならない声を漏らす。

「デ……デジモン、なの?」

 こくりと喉を鳴らし、一呼吸を置いて絞り出すように問えば、賢者はああと頷く。

「残念ながらそのようだ。あれは“鋼のセフィロトモン”。紛れも無い、十闘士の一人だよ」
「じゅ……え? それって」
「ストップ。これ以上は後にしよう。こうなってはここも安全とは言い難い。僕としてはこの小世界からの即時脱出を提案したいのだが」

 天にうごめくその規格外の化け物を目の当たりに、そう言われては一も二もあろうはずがない。私は窪みの奥を振り返り、

「ベヒーモス、動ける?」

 そう問えば内燃機関の小さな唸り。ベヒーモスは歩くような速度でゆっくりと私の真横までやって来る。まだ本調子ではなさそうだが、仕方がない。後は、とインプモンへ目を遣る。

「ああ、しょうがねえな」

 声を掛けると返ってくるのは意外に素直な即答だった。いや、それほどの状況ということか。インプモンは一度だけ戦場を、自らの肉体があるであろう遠境を見遣って、小さな舌打ちを零しベヒーモスに飛び乗る。私もまたベヒーモスに跨がり、先行して周囲を警戒するレイヴモンを追って、おもむろに走り出す。

 一難去って何とやら、か。思えばその連続なのだけれど……嗚呼、悪夢だ。
 
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