□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-4 暗幕の騎士(2/3)

 
 私の呼び声にベヒーモスの僅か前を先行するレイヴモンは、宙で器用に半身を捻って振り返る。

「如何なされましたか」

 問うレイヴモンの声に、視線に、愚直で不器用な音を感じ取り、思わずくすりと笑う。そう、この響きこそが今の私たちに必要な、確かな真実だった。
 私は戦場に一瞥だけをやり、首を傾げるレイヴモンに向き直る。

「今は、少しでも味方が必要な時だと思うの」

 ぴくりとレイヴモンの眉根が揺れる。

「聞かせて、あなたの仲間のこと」
「それは……」

 私の言葉にレイヴモンは明らかに戸惑い、返答に詰まる。そんなレイヴモンに代わって声を上げたのはインプモンだった。

「おいヒナタ、何考えてんだ?」
「何って?」
「俺たちはその両方に命を狙われたんだろ」

 嗚呼、そんなことは分かっている。分かっているとも。けれど、

「まだ生きてるじゃない」

 と言ってやればインプモンもレイヴモンも目を丸くして絶句する。そんな中で唯一ワイズモンだけが小さく笑う。

「確かにその通りだ。いや、君の言わんとしていることは分かるよ」
「ちょ……何の話だよ」
「あの青い鎧のデジモンよ。ミラージュガオガモン、って言ったっけ」
「俺を殺しかけたあいつか?」

 後部座席から首を伸ばして問うインプモンを、私はハンドルから離した片手でびしっと指差す。

「そう、それ。本当に死にかけたの?」

 そう問えば、私の意図を察しインプモンは眉をひそめる。

「わざと見逃したってのか?」
「だって、私は見付けただけでしょう?」

 つまりインプモンは生きていた。生かされていた、ということではないのか。

「あるいは実は死んでいたか、だね」

 私の問いに賢者は言う。って、死んでいた?

「どういうこと?」
「正確には限りなくそれに近い状態、死の間際から君が辛うじて命を引き戻したとするなら、ホウオウモンが探知できなかったことも納得がいく。まあ、あくまで一つの可能性だが」

 あ、と。言われて気が付く。いや、思い出す。失念していた。私があの時、インプモンは死んだのだと思ったのもそれが理由だった。

「なら、やっぱり……」

 視線で問う。レイヴモンはただ首を振る。自分の浅慮に思わず溜息が漏れた。

 けれど、そんな時――

「手なら俺が貸そう」

 突如として虚空より響く声は、そう言い放つのだった。
 
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