□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-4 暗幕の騎士(1/3)

 
「ねえ、さっきの話だけど」

 疾走するベヒーモスの上で視線だけを後ろにやって、風の音に紛れぬよう声を張る。後部座席のインプモンが抱える魔術書から浮かぶホログラムの賢者は嗚呼と応えて、

「十闘士であるセフィロトモンが何故アポカリプス・チャイルドの――ルーチェモンの側についているのか、かな?」
「ええ、だって十闘士は……」
「ルーチェモンを倒した張本人。だったな」

 ぽつりと呟くようにインプモンが私の言葉を継ぐ。そう、確かにリリスモンはそう言っていた。私は眉をひそめて上空に浮かぶセフィロトモンを一瞥する。賢者は小さく息を吐き、静かに語り出す。

「古代の英雄たる“初代”十闘士は、戦いの中、ルーチェモンを討ち滅ぼすことができなかった」
「確か、封印って言ってたっけ」
「そう、ルーチェモンの力は余りに強大だった。命を賭してなおダークエリアに封じることが精々。“初代”十闘士たちは死の際に、いずれ避けられぬであろうルーチェモンの復活に備え自らの力を“スピリット”と呼ばれるアーティファクトに結晶化し、後の世に託したのだよ」

 それが一度目の戦い。リリスモンは確か、その数百年後に二度目の戦いが起こったと言っていたか。

「スピリットは“初代”十闘士の盟友・三大天使の手によって後世の新たな闘士たちに受け継がれた。それが“二代目”の十闘士だ。そして……」

 一拍を置いて、賢者は言う。

「恐らくあれは“三代目”」
「じゃあ……前の戦いの時とは別人ってこと?」
「嗚呼、戦いの末“二代目”十闘士は勝利を収めるも、けれど彼らが討ち取ったのはルーチェモンの“光の半身”に過ぎなかった。残る“闇の半身”を、彼らは自らのスピリットを以ってこの地上から排したのだ。そうして“闇”とともにスピリットもまた失われた。はずだった」

 賢者の言葉にインプモンは空を仰ぐ。

「失われてねえじゃねえか」
「そのようだね。スピリットは世界の深淵・ダークエリアに“闇”を留める楔として打ち込まれていたのだろう」
「それがあいつらに奪われて、逆に利用されちゃった訳ね」
「スピリットは、乱暴に言ってしまえば武器に過ぎないからね」

 つまりは善も悪も使う者次第。今は、彼らもまた私たちの敵か。どこもかしこも敵だらけね。なんて大仰に溜息を吐いて、そうして――私はおもむろに視線を上げる。

「ねえ、レイヴモン」
 
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