□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-3 銀幕の天使(2/3)

 
 その腕は差し延べる手ではなく、斬り裂く刃。銀の鎧の背に負う翼もまた刃。かしゃりと鳴らして風を切る。勇ましき剣の天使は刺すような闘志をたぎらせ戦場へと翔ける。
 曇り無きその戦意は、あの時と何も変わりはしない。魔王が二つに分かれたあの時――想定外の事態に仲間たちが出遅れる中、魔王の片割れを追って唯一開いたゲートへの侵入を果たした、あの時と。抱く信念と正義に疑いは無く、臨む戦いに迷いは無い。それは間違いなく彼の強さでありながら、どこか危うくもあった。

「重傷と、聞いていたが」
「ふふ、私もそう聞いていたよ」

 次第に遠ざかる剣の天使の背を見据えたまま、レーベモンとメルキューレモンはそう言って肩を竦める。メルキューレモンは小さな溜息を一つ、

「違ったかな、クラヴィスエンジェモン?」

 なんて、わざとらしく首を傾げて振り返る。視線の先には重厚な白の甲冑を纏う天使が、手に巨大な鍵を携え静かに佇んでいた。鍵の天使・クラヴィスエンジェモンはがしゃりがしゃりと鎧を鳴らしてゆっくりとメルキューレモンたちへ歩み寄る。そうして視線は眼下、剣の天使へ。

「いまだ完治とは言い難いが……」
「言って止まる訳もないか。ふふ」

 リアルワールドへ逃れた魔王の片割れをデジタルワールドへ連れ戻すべくゲートへと引きずり込んだ際、魔王はゲート自体を攻撃することでアポカリプス・チャイルドの手から再び逃れてみせた。ゲートに横穴をこじ開け、無理矢理に。空間の転移はただでさえ大きな危険を伴うのだ。破損したゲートなど、命あって帰って来れただけでも僥倖と言える。
 魔王との戦いで負った傷に加え、デジタル空間からの侵食によって危うく分解されかかった剣の天使の体は、見た目以上に重傷。の、はずなのに。

「よくもまあ、あんな体に鞭を打てるものだ」

 やれやれとでも言わんばかりに首を振るメルキューレモンに、鍵の天使はぎりりと歯列を鳴らす。門番と戦士。役割が違うというだけで、魔王を取り逃がしたと自責に苦しむ友の手助けもしてやれない、と。
 そんな鍵の天使にメルキューレモンは肩を竦めて溜息を吐く。

「君も負けず劣らずだな。だが、ふふ、そう心配することもあるまい。既に勝ち戦だ」

 そう、戦局は明らかに優勢。だというに、何故だろう、不安が拭えないのは。鍵の天使はぽつりと呟く。

「だと、いいのだがな……」
 
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