□第九夜 銀幕のファンファーレ
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9-3 銀幕の天使(1/3)

 
 “生命の木”の巨大な瞳が瞬いて、姿を見せる白妙の天使たち。そして彼らとともに降り立つのは水棲生物を模した神の獣、アポカリプス・チャイルド聖獣部隊の水軍。雨あられと降り注ぐように、天使たちは空の部隊と合流し、水軍は湖へと着水・潜行する。

「勝負あり……かな? ふふふ」

 そんな様子を“生命の木”の内部より、遥か眼下に見下ろして彼は笑う。鏡の表面に口紅で描いたような唇を笑みの形に歪めて。その声はつい先程、眼下に遠い戦場でラーナモンに語り掛けた声だった。

「ラーナモン一人で十分か。我々の出番は今のところなさそうだが」

 そう続ける、その身は至る所に鏡、鏡、また鏡。姿見のような体、唇だけの鏡の顔、両腕にも大きな円形の鏡。それでいて立ち振る舞いはどこか優美で。鏡の貴人、といった風貌だった。
 貴人は顎を撫で、ふむと唸って後ろを振り返る。

「君はどう思う、レーベモン?」

 貴人の視線の先で、獅子を模した黒き鎧を纏う武人が閉じていた目をそっと開く。腕を組み、眼下に向けるその目はどこか冷めて見えた。レーベモンと呼ばれた黒の武人は、鏡の貴人と目を合わせることもせぬまま素っ気なく、

「お前がそう思うのならそうなのだろう、メルキューレモン」

 とだけ言って、また目を閉じる。鏡の貴人――メルキューレモンが他人の意見を自らのロジックに組み込むことなど端からありはしないのだと、レーベモンは知っていた。
 メルキューレモンは肩を竦めて小さく笑う。

「ふふ、相変わらずつれないな」
「楽しいお喋りがお望みか?」
「いやいや。ふふふ、詰まらないことを言ったね。忘れてくれ」

 なんて、おどけるように首を振る。レーベモンは小さな小さな溜息を一つ零す。そういうお前こそ相変わらず人を小馬鹿にしたような態度だなと、言葉なく冷めた視線だけを流す。そんな無言の非難には気付いているのかいないのか、メルキューレモンは「それより」と眼下を指差す。

「嗚呼、見給えよ。ふふ」

 その指の先はなおも降下を続ける白の天使たち、それを指揮する銀の天使へと向けられて。

「誰かと違って勤勉なことだ。いやはや、まったく頭が下がる」

 雄々しき姿は歴戦の猛者。その身を覆う銀の甲冑の下に、いまだ浅くない傷を残すことなどまるで悟らせないほど、凛と。断罪者なる剣の天使――スラッシュエンジェモンが、天に舞う。
 
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