□第八夜 金色のアポカリプス
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8-2 金色の追憶(4/4)

 
「大いなる名は、大いなる力を伴う」

 賢者の言葉に私とインプモンは再度顔を見合わせる。相変わらずどこか遠回りで、こちらの反応を窺うような物言い。首を傾げる私たちはあるいは思い通りか。疑問符の踊る私たちの顔を視線でそっと撫で、賢者は続ける。

「そのままの意味だよ。名は即ち力だ」
「つまり……有名だから強い、ってこと?」

 そりゃそうじゃない。と眉を潜めかけ、そうしてはたと。口に出した言葉を頭でなぞれば思わず眉根が歪む。私は首を傾げて再度問う。

「逆じゃないの?」

 力があるから名が知れ渡る。名声は功績の後にある。賢者の言葉は順序がまるで真逆に思えるけれど。
 しかし賢者は小さく首を振る。

「いいや。四聖獣しかり、三大天使しかり、そして……七大魔王しかり。その大いなる名こそが力の根源、大いなる者たる由縁だ」

 語る賢者の指はゆっくりと、眼前のインプモンを指す。

「“ベルゼブモン”の名と姿を得たその瞬間、君は“魔王”となった。凡百のデジモンを凌駕する威力と雷名が、君に与えられた」

 ぴくりとインプモンの眉が歪む。気付いているのかいないのか、賢者は構わず続けた。

「君は自らの意志と力によって七大魔王の地位まで上り詰めたのではない。用意された席に招かれ、用意された役割を与えられた。ただ、それだけのことに過ぎない」

 そう語る賢者に、しかしインプモンは否定の言葉を口にしない。その目はただ静かに賢者を見据える。私はインプモンを一瞥し、賢者に向き直る。

「つまり、誰かがインプモンたちを魔王にしたってこと? 何のためにそんな……」
「“世界”だよ」
「世界?」
「国があるために王があるように、世界があるためには大いなる者たちがあらねばならない。彼らはこの世界そのものにより、この世界そのものの歯車としてその役割を担わされた」

 そんな言葉に私はただ沈黙。インプモンの顔を見ることもできず、小さく息を呑む。

「アプローチこそ異なるものの、その目的は等しく“世界を護ること”にある。四聖獣が黙示録の怪物より世界を護る役割を担うように、君たち魔王もまた、守護の役割を担っている」
「俺たちが……守護?」
「その存在こそが鍵なのだよ。世界の闇を七分せし七大魔王……即ち“真なる闇”を七つに分かちて封印せし者。七大魔王が滅びる時、解き放たれる“真の闇”。その名を――」
 
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