□第八夜 金色のアポカリプス
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8-2 金色の追憶(3/4)

 
「あの空の彼方、天高きまほろばを統べるもの。天上の審判者――」

 詩の一節を読み上げるように賢者は語り、そっと、私たちへと視線を移す。

「審判……?」
「そう、すなわち“神なる意志”の代行者。天の高みより地上の善悪を見極め、時として弱き善を救い、強き悪をくじく。と、云われている」

 私が問えば賢者は僅かに肩を竦め、返答とともに小さな溜息を零す。先の言葉といい、その物言いにはどこか皮肉めいたものを感じるが、さて。

「神様ってさっきの……四聖獣だっけ、とは違うの?」
「ああ、君たち人間の世界と同じさ」
「同じ?」
「沢山いるものだろう? 神様というのは。そしてそれらが得てして、信奉者以外にはよくわからないものである、という部分も同様だよ」

 なんて、今度こそ皮肉を隠しもせずに。神様――つまりは実態のない信仰対象。偶像崇拝というわけだ。

「要するに“武装したカルト教団の教祖様”みたいなことね」
「うん。中々手厳しいが、概ねそんなところだ」

 否定してあげないあなたも十分に手厳しいけれど。私は小さく肩を竦め、やれやれと首を振る。しかし、ああ言ってはみたものの、話を聞く限りどうやらとんでもないのに目をつけられたようだ。賢者の語り口は“魔王より強い”と、そう言っているのだ。

「さて、この辺りまでがおおよそ、君たちの“戦いの始まり”であるわけだが……」

 私が小さな溜息を零し、口をつぐむと、賢者は微笑を浮かべてそんな言葉を口にする。

「ここからは、終わりの話をしようか」
「終わり?」
「すべての“戦いの終わり”。あるいは始まりとも言えるが」
「……そもそもの目的、ってこと?」

 問えば賢者はこくりと頷く。私はインプモンと顔を見合わせ眉をひそめる。インプモンもまた首を傾げ、

「強き悪とやらをくじくんじゃねーのか」
「それは手段だよ。いや、未だ推測の域は出ないのだがね」

 そんな物言いにまた眉根を寄せる。

「もっと別の目的があるの?」
「ああ、その通りだ。ところでベルゼブモン……いや、今はインプモンかな」
「どっちでもいい。何だよ」

 一拍を置いて賢者は問う。私たちの眉間のしわをより深く刻むようなそれ。問われたインプモンも頓狂な声を上げるばかりの。

「君は自らの生まれた意味、その力の理由――魔王の存在意義を考えたことはあるかな」
「……ああ?」
 
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