□第八夜 金色のアポカリプス
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8-2 金色の追憶(1/4)

 
 怒号と銃声。血煙と硝煙。天使と――魔王。
 巡るは記憶。始まりの戦場。
 襲い来る天使の軍勢は数百を数えようか。迎え撃つ魔王は荒野に鉄の愛馬を駆り、嬉々とその牙を剥く。放つ銃弾、奮う魔爪に白羽が紅く染まり、虚空に散る。孤軍奮闘。一騎当千。けれど戦いは突如として天より降る“それ”によって終局を迎えることとなる。

「光の柱……じゃねえな。炎だ、白い炎」

 空を貫き、地を砕き、血肉を焦がすそれ。光の柱と見紛うほどにまばゆく、さながら神より下される鉄槌の如き、白の炎。絶叫すらも許されぬ力の重圧の中、存在そのものが綻ぶような錯覚。喘鳴。気付けば炎は止み、焦点の定まらぬ目が空を撫でる。そうして、刹那。

「霧が降った。冷たい白い霧。あの戦いで思い出せたのはそこまでだ」

 あるいは、記憶そのものがそこまで。
 そしてそこからが、もう一つの記憶。魔王ベルゼブモンではない記憶。その片割れ、インプモンとしての記憶は冷たい闇の中から。

「見付けてくれたんだな」
「え?」
「闇の中から俺を……俺の声をヒナタが見付けてくれたんだ」

 孤高の魔王の孤独な叫び。助けを求めたわけではない。元より寄る辺なき身。けれど、それでもその声は世界の壁を隔てただ一人の耳へ届いた。

「私が……?」
「成る程。電脳核の奏でる命の旋律――デジメロディ、か」

 闇の中のその声に、鼓動に、旋律に応えてくれたただ一つ。夜の海を漂うように彷徨って、昇る陽のように射した光へ手を伸ばした。
 そうして魔王は、二つに分かたれた。

「ヒナタが俺を呼んでくれたんだ。そんなつもりはなかったろうけど……」

 たゆたいの果て、流れ着いた岸辺で少女と出会った。光溢れる、彼の世界で。

「誰も彼もが予想だにしなかったことだよ。君たち二人の間にできた“繋がり”――偶然と呼ぶか運命と呼ぶかは君たち次第だが、その繋がりはゲートとなって君たちを引き合わせた」

 けれど誤算がまた一つ。
 魔王を留める封印の氷柱と、魔王を呼ぶゲートの引力。真逆のベクトルを持つ二つの力は、同時に果たし得るはずのない互いの責務を、あろうことか果たし切ったのだ。

「そうしてできたのがこの俺。魔王ベルゼブモンのエイリアス……いや、その記憶と人格の“仮の入れ物”ってとこか」

 ふう、と一息を吐く。
 語り終えたインプモンはどこか、儚げに見えた――
 
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