□第八夜 金色のアポカリプス
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8-1 識欲の賢者(4/4)

 
「手助け?」

 賢者・ワイズモンの申し出にインプモンは、眉間に深いシワを寄せ、猜疑心などまるで隠しもしない目を向ける。インプモンの疑心も当然と言えば当然だが。

「あなたの目的は?」

 インプモンの次の言葉も待たず、口を挟んだのは他でもない私。魔王の相談役を名乗るこの賢者は、まだ私たちに肝心なことを話していない。先の発言からは立ち位置すら明瞭でないのだ。
 私とインプモンの視線に、しかし賢者は肩を竦める。

「なに、単なる知的好奇心さ。僕は真理の探究者・ワイズモン。僕を突き動かすのはただ、“知りたい”という欲求だけだ」

 だからご安心なさいとでも言わんばかり、賢者はふと微笑を浮かべる。何やら随分とズレた感覚の持ち主のようだが、さて。

「……わかった」
「わかった?」
「話してあげなさいよ、インプモン」

 小さく息を吐く。僅かを置いて私の口から、実に自然に零れたのはそんな言葉。インプモンは目を丸く、返す言葉は喉の奥にでも引っ掛かったように二の足を踏む。

「ちょ、ちょっと待てヒナタ。信じるのかこいつ?」
「いいじゃない。別に誰も損しないでしょ? それに、悪い音はしないし」
「悪い音って……音?」

 私の言葉をリピートし、そうしてインプモンは、首を傾げる。訝しげな視線が私の目を捉え、しばらく無言で見つめ合う。悪い音……音?

「音ってなに?」
「いや知らねえよ」

 インプモンの即答は尤も。私は一体何を口走っているんだ。訳もわからず眉をひそめて首を傾げる。と、そんな私に賢者はまた小さく笑う。

「君たちにとっての始まりもまた、恐らくはそこにある。今は少しでも多くを知っておきたいはずだ。信用しろなどと言うつもりはないが……」

 賢者の言葉にインプモンは私を一瞥する。ほんの一瞬、けれど交わる視線は言葉以上に互いの心の内を語るよう。インプモンはそっと瞼を閉じて、誰にともなく呟くように、

「信用はしなくても、利用はできる……か」

 ゆっくりと瞼を開く。深緑の双眸が真っ直ぐに賢者を捉える。

「わかった。お望みどおり話してやる。てめえの頭がどんだけ使えるか見せてみろ」
「使い物にならないようならこの本を焼き棄てるなりしてくれればいいさ。ともあれ、一先ずは交渉成立……ありがとうとでも言っておくべきかな」

 ふ、と小さな笑み。そしてインプモンは、語り出す。
 
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