□第八夜 金色のアポカリプス
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8-4 進撃の聖徒(2/5)

 
 光瞬く空にケダモノの咆哮がこだまする。血にも火にも、黄昏にも似た赤きその肢体。混沌の名を持つ破壊者、暴竜・カオスドラモンはその研がれた刃のような牙と牙とを打ち鳴らし、背に負う砲の吹く火とともに雄叫びを上げる。迫り来るアポカリプス・チャイルドの軍勢を撃ち落とし、焼き払い、次なる獲物を求めて移ろうその目が、遠く視界の端に揺れる影を捉える。

 来やがったな……!

 がりりと轍を刻むように石畳を踏み締めて、込める力は砲身が砕け散らんばかり。東の空より進攻するクロスモンの部隊から照準を外し、視線を移すは西の空。身を翻し、歯列を狂気に歪ませて、挨拶代わりと放つその一撃。西の空に火の花が咲く。

「はははははぁ! 早かったじゃねえか! 道中大事はなかったかあ!?」

 爆煙を切り裂く、翼。暴竜の一撃を逃れ飛翔する数多の影。西の空より進攻するは怒れる聖獣の群。クロスモンに並ぶ聖獣部隊のもう一人の将、大鷲の翼と獅子の体を持つ雄々しき王なる幻獣・グリフォモンが率いるはアポカリプス・チャイルドの第二陣。幻獣は眼光鋭く、耳障りに笑う暴竜を見据え、声を張る。

「カオスドラモン……! 貴様あぁっ!」

 開いた嘴は、砲口。叫ぶそのままに放つは音速の衝撃波。それはデータに綻びをもたらす破壊の旋律。姿すら見せず、足音すら聞こえぬ死神の鎮魂歌。正しく瞬く間に飛来するそれ。ゼブルナイツ陸軍・砲撃部隊の弾幕に威力の大半を相殺されながらもその間隙を縫い、古城の石壁をえぐり取る。
 がらがらと湖へ落ちる瓦礫を横目に、カオスドラモンはその凶悪な顔貌を笑みに歪ませる。

「はははっ! 逸るな逸るな! せっかちな野郎だ! 愉しもうぜぇ!?」
「ふざけたことを……!」

 仲間を捨て駒にしておいてよくもぬけぬけと言えたものだ、と。血が沸き、骨子と筋肉が軋むような錯覚。幻獣はぎりりと嘴を鳴らす。と、その時だった。

「グリフォモン!」

 そんな声にはっと、冷静さを取り戻す。声を追って上空を仰ぎ見れば、闇の竜と矛を交える金の巨鳥の姿。

「クロスモン……すまない! 足止めを食っていた! 加勢する!」

 激情を払うように頭を振って、幻獣は翼を広げる。視界に竜を捉え――けれど、その刹那。

「必要ない」

 風切り音と、金属音。瞬きの間に青い影が、巨鳥の眼前より竜をさらう。

「お前の相手は、この私だ」
 
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