□第八夜 金色のアポカリプス
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8-3 進撃の機竜(4/4)

 
 怒号と剣戟。怒火噴き上がり、剣風吹き荒ぶ、戦場の空。戦意と眼光、竜の槍と巨鳥の爪とが、交わす互いのすべてが火花を散らす。
 それは言葉なく。けれどこれ以上はないほど明瞭に、互いの胸の内を語るよう。

 お前が邪魔だ、と。

 勝利のためにはそう、目の前に立ち塞がるこの障害を、即刻排除することが何よりの優先事項。それだけが、なにもかもが噛み合わぬ互いの、唯一の共通認識。

 竜が咆哮とともに猛々しく槍を突き出し、巨鳥が光の粒子を纏う爪をふるい、けれど互いに激突を待たずその身を翻す。フェイント。かと思えば一瞬離れた間合いを即座に詰め、槍と爪とが鎬を削る。虚実入り乱れ、虚々実々の騙し合い。千分の一秒に駒を進める、頭の中のウォーゲーム。ベットは命のオールイン。勝てば勝利のジャックポット。
 ぎり、と。知らず歯列を鳴らす。ここが戦略の心臓部。この勝敗は確実に戦局の天秤を傾ける。

 一、二、三撃を交え、僅かに開く彼我の距離。巨鳥は剣戟の間を縫うように横合いへ一瞥をやり、一瞬。再び目前の竜を見据え、再度空を駆る。

 ――どこから来る?

 眼前には今まさに矛を交える“枯れた森”の闇の竜。眼下には水中の兵団の将にして先の砲手たる“紺碧の海”の鋼の海竜。と、なれば残るは……

「中の連中は、機を逸したと見える」

 瞬間、竜の槍から鍔ぜり合う巨鳥の爪に僅かな力の震えが伝わる。それは刹那の、並のデジモンにとっては気付くことさえ困難な、隙とも呼べぬ微かな揺らぎ。
 けれど、それで十分。
 巨鳥の爪が閃いて、零距離からの更なる一撃に竜は身一つほどの後退を余儀なくされる。力任せの一撃は巨鳥自身にも隙を作り、追撃を加えるには悪手とさえ言えるが……狙いは、そこにはない。

「パロットモン!」

 自らの力の反動そのままに距離を開き、作り出したその剣戟の空白。余りにも短く、伝えられたのは僅か二言。

「“中”だ!」

 と、ただそれだけ。秒の間の空白を置いて、再び翔ける巨鳥と竜。鋭く乾いた金属音が言葉の余韻さえ呑み込む。
 そう、これで十分だ。こちらには優秀な副官がいる。後顧の憂いはもはやない。これで――

 嵐のような戦意とともに、轟く咆哮。光の粒子が巨鳥を覆う。

 左手の手袋は、受け取ろう。

 これで後は、一介の戦士としてこの眼前の宿敵を、心置きなく叩き潰せるというものだっ!
 
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