□第八夜 金色のアポカリプス
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8-3 進撃の機竜(2/4)

 
 鉄と鉄とが擦れるような不協和音。重く低い唸りは、湖底で渦巻く水の慟哭。急激に集束、圧縮された水流が奏でる轟音は、まるで巨大な弩弓の弦を引くが如く。番えられた水の矢はその鏃を天に向け、今、弦を打つ。

「総員退避ぃいぃーー!!」

 竜との剣戟の間を縫うように、巨鳥がようやく絞り出したその一言はしかし、今一歩届くことなく。瞬間、放たれる一撃はさながら命を貪る無慈悲なる龍。阿鼻叫喚さえも呑み込む咆哮が大気を揺らし、逆巻く激流は天をもえぐるが如く立ち昇る。
 水の唸り。風の叫び。湖が震え、空が軋む。現れいでるは水天逆巻く、大竜巻。天地を繋ぐ柱にも見紛う巨大なそれ。
 これが奴らの狙い。決定打足り得ぬ威嚇に近い射撃はこの布石。規律立ったアポカリプス・チャイルドの隊列を一つ所に誘い込み、一網打尽にするための……!

「ダークドラモン……っ!」

 荒れ狂う風の中、嘲笑う闇の竜。耳をつんざく轟音の中にあってはっきりと、計画通りだとその薄ら笑いが語る。
 ふざけるな。調子に乗るな。何もかもが貴様らの思い通りになど――

「行くと……思うなあぁーー!!」

 噴き上がる怒りを金色の炎に変えて、巨鳥の叫びが風音を引き裂くようにこだまする。一瞬の静寂と、間隙。
 この罠のため、執拗に追い縋る竜によって動きを封じられていた巨鳥。だが皮肉にもこの一撃の成功が戦場を掻き乱し、計らずも両者を僅かながら引き離すことになる。結果、巨鳥は竜の剣戟を辛くも摺り抜け振り切って、この二人きりの戦場からの離脱を果たす。

 舌打ち。降下を始めた巨鳥の姿は既に遠い。即座に追うも竜に巨鳥を止める術はない。風を切り裂く金色の巨鳥は加速とともに光の粒子をまとい、その姿はさながら冠する名を体現するが如く。
 眼を焼く閃光。金切り声にも似た大気の摩擦音。譬えるならば、降る星とでも。即ちその名を“カイザーフェニックス”。皇なる光の巨鳥は大竜巻を前にしてなお僅かな躊躇すら無く、我が身を武器と突き進む。その姿は一瞬に激流へ沈み――秒にも満たぬ刹那の静寂。その、直後。しかしてそれを破るは風の断末魔。

 まるで枯れ痩せた老樹を伐木するように、斯くも容易く大竜巻を貫いて、霧消する風に一瞥もくれず巨鳥は更なる猛進。その嘴の穂先が水面を突いたとほぼ同時。瞬きの間に大竜巻は四散し、代わり、逆流する飛瀑の如き水柱が立ち昇る――
 
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