□第八夜 金色のアポカリプス
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8-3 進撃の機竜(1/4)
灰と泥に濁る湖より撃ち出されるのは氷と雷の矢。水中を自在に遊泳するその射手は、恐らく10や20では済まないほどの大群。黄金の巨鳥・クロスモンは舌打ちを一つ、無数の影が浮かんでは消える水面を見据える。
間違いない。
奴らは“紺碧の海”と呼ばれる小世界に戦線を展開していたゼブルナイツの一兵団。我らの進軍を見越して既にこの地へ集結していたのか。いや……。
デジタルワールドに置いて小世界同士は様々な形で連なっている。荒野の大穴とこの地の空とが繋がっているように、“紺碧の海”と“水の森”もまた地下水脈で繋がっていたのか。
全ては計算尽く。ともすれば、我らがこの地に辿り着いたことさえも……!
「どこを見ている?」
おまけに、これだ。
薄ら笑いを浮かべて迫り来る、ダークドラモンの槍を避けてまた、戦場が遠ざかる。
完全体以下と究極体との間には戦力に余りにも大きな開きがある。自惚れではない。過大評価ではない。その力は正に一騎当千。戦局を容易く覆す戦略級の力だ。奴はそれを十二分に理解している。だからこそ、
「さあ、どうしたぁ!?」
究極体は、究極体をもって抑える。一見考えなしの単騎駆けに見えどもその実、窮めて合理的。先の奇襲には、この一騎打ちが絶対の前提条件なのだ。
いや……“奇襲”?
「貴様っ!」
自らの言葉をなぞり、はっと、再度戦場へ目を遣る。タイミングも弾道も読み辛いとはいえ、水中からの狙撃は翼ある自分たちにとってそれほどの驚異にはなり得ない。であれば、これは……!
「パロットモ……っ!」
自らに代わり飛行部隊を指揮するパロットモンへ向けた言葉は、激しい金属音に半ば遮られてしまう。
微笑。どこまでも嫌らしく、粗暴なケダモノの皮を被った狡猾な策士。ダークドラモンのその顔は、邪魔をするなと言外に語る。
決定打にはなり得ぬ氷の矢の斉射。だが、布石としては十分。避けられる攻撃を避けられる位置で避ける。その不自然さ。
気付けパロットモン! これは……罠だ!
第二の罠、第二の奇襲。互いの究極体が互いに抑えられているという現状、それゆえの僅かな油断。水中の射手は驚異足り得ないという、誤認。
そうだ、“奴”がまだ姿を見せていない。紺碧の海の兵団が集結しているのであれば“奴”は、“奴ら”の狙いは――!
眼下に遠い戦場で、光が瞬いた。